二月公「声優ラジオのウラオモテ」 性格正反対の現役高校生声優２人、関係の妙
現役高校生声優の夕暮夕陽（ゆうぐれゆうひ）こと渡辺千佳と歌種（うたたね）やすみこと佐藤由美子。偶然にも同じ高校に通うクラスメートだったことがきっかけで、ふたりをパーソナリティーにしたラジオ番組が始まった。ところが実際の教室でのふたりは、一方は地味で根暗な日陰者、一方はメイクとつけまつげは欠かさない茶髪ギャルという正反対のキャラクターで、その相性も最悪なものだった……というところから、二月公（にがつこう）のデビュー作『声優ラジオのウラオモテ ＃０１ 夕陽とやすみは隠しきれない？』ははじまる。電撃文庫の新人賞である第２６回電撃小説大賞で２年ぶりとなる《大賞》を受賞した作品である。
世の中には「これを思いついた時点で勝ちだ」と思わせてくれる作品というものがあるもので、本作の夕陽とやすみの関係性はまさにそれ。「オモテ」のラジオではテンプレート的とさえ言えそうな「仲良しアイドル」を演じるふたりだが、いざ収録が終わるやいなや罵詈（ばり）雑言の応酬が飛び交う。ラップバトルが人気を博しているように、弁が達者な人たちの口ゲンカというのは傍（はた）で聞いている分には楽しいもの。現役高校生声優ふたりがプロならではの語彙（ごい）と滑舌と機知、そしておのれの本来の性格を存分に活（い）かして繰り広げる罵倒合戦は大変に面白く、一周回って、むしろ相性がいいのでは？と思わせてくれるレベルだ。
さらに、本書の書く「ウラ」側は、彼女たちの本性だけにはとどまらない。たとえば夕陽の方は、役者のみならずアイドルとしての側面を求めてくる現在の業界に違和感を隠せないし、一方のやすみは求められる役割を積極的にこなしながらも足踏み状態で、着実にキャリアを重ねていく相方に嫉妬と劣等感を抱かざるをえないでいる。くわえてソーシャルメディア全盛の現在にはじまったふたりの番組は、やがて思わぬ形の反響を生み出すことになる……。
一見、華やかな声優業界のオモテもウラも描き出す本書だが、その印象はけして陰湿なものにはなっていない。犬猿の仲でありながらも、実は互いへのリスペクトがあって、そして声優という職業にかける情熱は本物。そんなふたりの関係性が作品を骨太でさわやかなエンターテインメントとして成立させている。これから先も楽しみな新シリーズだ。（ライター）＝朝日新聞2020年3月21日掲載
