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「御社のチャラ男」書評 あなたの職場にもいる、あの人

評者: 斎藤美奈子 / 朝⽇新聞掲載:2020年03月28日
御社のチャラ男 著者:絲山秋子 出版社:講談社 ジャンル:小説

ISBN: 9784065178096
発売⽇: 2020/01/23
サイズ: 20cm/317p

御社のチャラ男 [著]絲山秋子

 みなさまの職場にもいますかチャラ男。そりゃいますよね。なにしろ〈チャラ男って本当にどこにでもいるんです〉から。これ世間の常識。〈外資系でも公務員でもチャラ男はいます。士業だって同じです。一定の確率で必ずいるんです。人間国宝にだっているでしょう。関東軍にだっていたに違いありません〉
 ここにもいます。三芳道造44歳。地方都市に本社を置き、ビネガーやオイルを主力商品とするジョルジュ食品の営業統括部長だ。
 チャラ男の定義は一言ではいえないが、三芳部長の評判を総合すると、見栄っ張りで世渡り上手、話題が豊富なわりに内容は聞きかじり、常に自分中心、頭がよくて危機管理能力が高い半面、責任感はない、そしてあまり働かない。
 そうです、あなたの職場でいえばあの人です。
 もっとも、この小説の主人公は三芳部長じゃないのである。えっ、じゃあ主役はだあれ? じつは……。
 年齢も立場も職種も多様な10人を超す人物が登場する。こんな会社はいずれ辞めると誓う営業マン、社長秘書兼何でも屋みたいな総務課の女子社員、会社でも家庭でもひたすら耐えるロスジェネの男性、うつ病で休職したのち復帰した女性。彼や彼女がてんでに会社を語り、チャラ男を語り、自身の人生を語る。その結果浮かび上がるのは、会社という組織の変態ぶり、ひいては昭和の残像をいまだにひきずる日本社会そのものの姿である。
 家族を描いた小説は浜の真砂(まさご)ほどあるけれど、会社を題材にした小説は暁天の星、きわめて少ない。近年は増えてきたけどそれでも少ない。絲山秋子は会社を描ける稀有な作家だ。
 〈チャラいなんて昔からずっと言われてました。/だから痛くも痒(かゆ)くもない〉と三芳はいう。彼には彼の論理があるし、だいいち会社も永久不滅じゃないのである。リアルすぎる「職場あるある」に読者は爆笑しつつも肝を冷やすだろう。
    ◇
いとやま・あきこ 1966年生まれ。作家。「袋小路の男」で川端康成文学賞。「沖で待つ」で芥川賞。『末裔』など。