イベント編 地域性が浮かびあがる350作 文芸評論家・斎藤美奈子
47都道府県のご当地文学を紹介する連載「旅する文学」の完結を記念して、連載筆者で文芸評論家の斎藤美奈子さんを招き、7月1日、東京・築地の朝日新聞東京本社で作家LIVEを開いた。斎藤さんは4年超の連載を振り返り、執筆の裏話を明かした。
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「旅する文学」は2022年4月から連載が始まった。47都道府県を順不同で取り上げ、舞台となった作品を紹介する企画。その土地に通底する地域性や人々の気質を作品群から見いだした。
連載のきっかけを、「企画、立案ともに斎藤です」と明かした。日本文学をただ読み返すのではなく「今までになかったようなことをしたいと思い、提案した」と振り返る。4年余りの連載で取り上げた作品は350作を超える。どう選んだのかという質問が事前に寄せられていた。
斎藤さんは、まず、1回あたり20作ほどをリストアップした、と執筆までの流れを説明した。地域の歴史や景勝地、地場産業といった特徴がよく描かれているものを見極め、絞り込む。「実際に読むのは12~13作。そのあと6~7作に収めたいと思うと、本当に悩みます」。ひとつの県内での地域差にも目を配り、舞台が偏らないようにしたという。「何冊も読んでいくと、その県の特徴や作品の傾向がぼんやり見えてくるんです」
また、芥川賞や直木賞の受賞作、本屋大賞を受けた作品などは積極的に選んだ。「受賞作はプロが選んだ本、ベストセラーは読者が選んだ本。それぞれに意味があります」
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一方、下調べの段階で、作品数が足りないと懸念した県もあったという。たとえば徳島編では、急きょ現地取材に出向いた。そこで1917~20年のドイツ兵捕虜と住民との交流を描いた原田一美の児童文学『ドイツさん』や、賀川豊彦の自伝的小説『死線を越えて』が徳島という土地にとって意味のある作品だと確信し、選書に加えた。「徳島は難しいかなと思ったけど、違った。私たちが(土地や作品を)知っているかどうかが問題なんですよね」
ただし、執筆直前の現地取材は例外。新潟出身の斎藤さんは、西日本の地理に弱かったといい、小説を読んでも土地勘が働かず「ピンと来なかった」という。そのため、20年ほど前から「日本100名城」や近代化遺産などのリストをもとに、年に10カ所ほど訪ねていた。実は連載開始前に47都道府県を「踏破」していたというのだ。
「以前は本当に地理音痴で、岡山と広島はどっちが西か迷い、四国4県の位置も自信がなかった」。時代小説は得意ではなかったが、「現地に行ってから身近になった。好きな城が出てきて、戦国期や江戸期に、そこがどんな土地だったかを知ると興奮します」と話した。
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作品を読み、舞台を特定する過程には苦労と発見があった。
岩手編で取り上げた井上ひさし『吉里吉里人(きりきりじん)』は、架空の村が独立を宣言する物語だ。東北本線を北上する列車に乗っていた作家が、突如、独立騒動に巻き込まれる。斎藤さんは舞台が岩手だと思いながら読んでいたが、作中にある駅名「赤壁」は実在せず、宮城県側にある「有壁」がモデルのようにも読みとれる。東北本線が通る宮城、岩手の県境付近は入り組んでいる。この本の作品論なども参照して、特定は不可能と判断し、「宮城と岩手の県境の架空の村」と記した。
愛媛編の片山恭一『世界の中心で、愛をさけぶ』では、真珠養殖が盛んなことや、主人公が入院した病院と城の位置関係、「石応(こくぼ)」という地名を手がかりに、モデルは宇和島市と読み取った。「舞台を突き止めると読み方が違ってくる。特定の土地を書くにあたって作家は現地に足を運び、調べて書いたことが改めてわかった。(作家の努力に)敬意を覚えます」
連載は今冬、朝日新聞出版から書籍化される。(伊藤宏樹)