「暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて」書評 恐れに支配されないための知恵
評者: 宇野重規
/ 朝⽇新聞掲載:2020年04月04日
暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて: ル=グウィンのエッセイ
著者:アーシュラ・K・ル=グウィン
出版社:河出書房新社
ジャンル:文学・評論
ISBN: 9784309207902
発売⽇: 2020/01/25
サイズ: 14×19.8cm/288p
暇なんかないわ 大切なことを考えるのに忙しくて ル=グウィンのエッセイ [著]U・K・ル=グウィン
『ゲド戦記』は親のない少年が故郷を離れ、魔法使いになるための学院に入るところから始まる。自尊心と不安、他者への信頼と猜疑(さいぎ)に悩む主人公は、やがて自らの内なる力を知る。ただ、あまりに有名なこのファンタジーは、後半を読むとだいぶ印象が変わる。大賢人となったゲドは魔法の力を失い、苦悩するが、それでも自分の老いや無力さと立ち向かい、若者を支え続ける。どの世代が読んでも、励ましとなる本だ。
本書はその著者ル=グウィンの生前最後のエッセイ集である。老いの問題から始まり、現代文学への想い、さらには政治や社会について、リラックスした、しかしときに激しい怒りや批判を伴う文章が続く。「恐怖というものが、賢いことはめったにないし、親切であることは決してない」という著者が、それでも自分が怖がっているものをあるがままに認識し、自分のすべてを恐れに支配されないための知恵を語る。相棒の猫の話も素敵だ。