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「デジタル・デモクラシーがやってくる!」書評 熟議・可視化…新たな可能性も

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年04月18日
デジタル・デモクラシーがやってくる! AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない? 著者:谷口将紀 出版社:中央公論新社 ジャンル:政治・行政

ISBN: 9784120052774
発売⽇: 2020/03/09
サイズ: 20cm/251p

デジタル・デモクラシーがやってくる! AIが私たちの社会を変えるんだったら、政治もそのままってわけにはいかないんじゃない? [著]谷口将紀、宍戸常寿

 きょうの朝日新聞には、どの朝日新聞であっても、この(いまあなたが読んでくれている)書評が掲載されているはずである。どれほど読まれるかはさておき、どの読者も目にすることはできる。だがネットのニュースサイトは一般にそうとはかぎらない。一人ひとりの履歴に応じて、異なる記事が表示されるからだ。同じサイトを見ている人々が、違う記事を目にする。各人が気付かぬうちに、接する情報の範囲が狭まっていく。これは社会の分極化をうながしていく。
 2016年のアメリカ大統領選では、ヒラリー候補を攻撃する嘘の記事が多く出た。これはヒラリー氏を攻撃するほうが、トランプ氏を攻撃するよりもよく読まれ、広告収入が増えるからであった。日本でも、18年の沖縄県知事選では、玉城デニー候補を攻撃する嘘の記事やサイトが多く現れた。それら嘘はSNSを通じて拡散された。
 フェイスブック社の創業者ザッカーバーグ氏は以前、公聴会で、自分たちは人々が記事を載せる土台にすぎないと主張した。土台には載るものへの責任はないという意味だ。だが実際には人々は雑誌を読むようにフェイスブックを読むし、それで同社は利益を得る。とすれば同社は出版社のように、記事への責任を免れないのではないか。ファクトチェックの実施は、現在のデジタル政策での重要課題である。もちろんそこには表現の自由との緊張関係がともなっている。
 デジタル化には、民主主義と親和する点も多々ある。例えばオンライン上に熟議の機会を広げられるかもしれない。市議会の議事録をAIに読み込ませ、市が抱える問題を可視化できるかもしれない。かつてルターが推し進めた宗教改革は、活版印刷の発展が可能にしたことであった。技術の進展は、新たな社会の姿を可能にする。その姿が、いまよりも善きものとなるかは、ひとえに現在のわれらの努力にかかっている。
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たにぐち・まさき 1970年生まれ。政治学者。NIRA総研理事▽ししど・じょうじ 1974年生まれ。憲法学者。