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「無人島冒険図鑑」梶海斗さんインタビュー コロナが収束したら行きたい、人間本来の価値観を知るサバイバルの魅力

文:加賀直樹 写真:斎藤大輔

『無人島冒険図鑑』より

日本は世界8位の「無人島大国」

――日本は世界で8番目に無人島が多いということを、本の冒頭で初めて知ってビックリしました。無人島といえば、青い海の真ん中に、ヤシの木が1本立っているイメージ……

 そうなんですよ。日本には6852の島があって、本土と有人離島(432島)を除けば、6415もの無人島が存在するんです。でもイメージがイマイチわかない人、多いんですね。この本はそんな人たちに、日常から遠く離れた無人島の自然空間を楽しんでもらえるように、2019年春から刊行の準備を重ねてきました。

――ところで、そもそも「無人島」の定義とは?

 海上保安庁では、こんなふうに定義しているんです。まず、「海図上で岸線が0.1キロ以上ある自然陸地(橋や防波堤で本土などとつながっていてもよい)を島と呼び、そのうちで定住者がいないもの」。そして、「ある季節だけ移り住む者が居る島、あるいは、住民登録や本籍をその島の住所に置く者がいても実際に住んでいるわけではない島」。

――なるほど。そうすると、例えば長崎の「軍艦島」は、人工建造物がたくさんあっても、住民は1人もいないから、無人島にカテゴライズされるのですね

 無人島には、いろんなパターンがあるんです。電気も水道もない、自然そのままの環境の島。ちょっとした野外活動ができるような、キャンプ場程度の施設が整った島。昔、人が住んでいたけどいなくなり、寂れてしまった島。それから、定住者がいないだけで、電気も水道も電波も、何なら豪華な寝室まで完備された島。自分自身は、初めて無人島に行ったのはもう12年前の話ですので、「無人島プロジェクト」の活動を通じて蓄積してきた知識を本に詰め込みました。

初の無人島上陸は「蚊に刺される刺される」

――梶さんはなぜ、無人島に心惹かれるように?

 「十五少年漂流記」や「ロビンソンクルーソー」に憧れる子どもだったんです。YMCAという団体に小学生の頃、5年間所属していました。ボーイスカウトのような活動で、そこで自然が好きになったのが大きかったと思います。山には1泊2日、バックパックを背負って登山して戻ってくる。琵琶湖のほとりでキャンプする。だいたい1、2カ月に1回ぐらいのペースで経験していました。

――「無人島」に焦点が当たったのは?

 19歳、京都の大学2回生の夏休みです。「無人島でキャンプしてみたい」。ふと、思ったんですよ。最初に訪ねた無人島は、家島諸島という兵庫県姫路市にある島でした。行けるかどうか分かりませんでした。でも、「ま、とりあえず有人離島まで行けば、誰かにお願いすれば行けるかも」。そう思って、家島諸島のなかにある男鹿島という小さな有人離島に渡りました。そこで、漁師さんに直談判したんです。

――「あのう、無人島に行きたいんですけど……」って頼んだのですか。怪しまれませんでしたか

 「無人島でキャンプをしてみたいんですけど、船を出して渡してもらえませんか」って相談してみたら、快諾して連れて行ってくれました。僕ひとりじゃなく、バイト仲間5人で一緒に行ったんです。ま、無人島行きが叶わずとも、どこかでキャンプできればいいや、と。

――初めての無人島上陸、いかがでしたか

 まあ、蚊に刺される刺される(笑)。準備をまったくしてなかったんです。海沿いのキャンプの経験もなかったですし、失敗しました。大変な思いをしましたが、一方では、自分たちで魚を釣ってきて、さばいて食べてみました。

――おっ、何の魚が捕れましたか。姫路だと鯛が有名ですが

 そんな立派なものは釣れないですよ、素人ですから。「ベラ」って知っていますか。10センチぐらいのカラフルな魚です。そのカラフルさから、無人島初心者から「こんな毒々しい色の魚、食えるはずない」と怪しまれる魚です。この「ベラ」の仲間たちがすごくよく釣れます。知られたところで言うなら、「スズメダイ」や「カサゴ」、「メバル」はよく捕れますね。

『無人島冒険図鑑』より

――たしかに美味しそうな色じゃないですね

 「これ、食べられるのかなあ?」って、漁師さんに電話して聞いたんです。そういう、「自分たちで生き抜く」という経験が、仲間たちとの忘れられない記憶になった。「無人島体験、面白いな」。その時初めて思ったんです。

――ずっとそれからは無人島に傾倒を?

 毎夏、無人島に行くんです。大学のクラスメートを連れて行きました。3回生の時、「無人島に行きたい人を公募しよう」と思い立って、「ミクシィ」に投稿したんです。そうしたら、20人ぐらい学生が集まったんです。その時は「お金を稼ぐ」とかはまったく考えていませんでした。

――学生さんたち、「初めまして」ですよね

 ほぼ「初めまして」です。その時、僕は、人のつながりをつくる目的の学生団体を主宰していて、無人島キャンプを団体の企画として行ったんです。「無人島キャンプ」のコアメンバー5人はこの団体のスタッフで、それ以外の学生は「初めまして」で、姫路の無人島に行きました。活動の序盤は、ほぼ気候が穏やかな瀬戸内海でやっています。大学に進まずに起業した若者、同年代で地域活性化に勤しむ人たち。海外ボランティアに行く子。今でこそSNSでつながれますが、彼らをつなぐ「はしり」のイベントでした。

キャンプツアーから無人島ライブまで

――そんな活動でのご経験が、社会人での人生にもつながったのですか

 つながっています。(就職したリクルートは)起業する人が多かったので、自分もそうする可能性が高いと思っていました。父は古美術商で、父で7代目。母は「うつわ」のセレクトショップを経営しています。いわば両親とも社長なんですよね。僕は長男ですから、自分で生きていく力を身に着けなければいけない、とは思っています。

――ところで、学生生活を終えてからは、「無人島プロジェクト」代表やNPO「無人島・離島活用協会」代表理事に就任していますね

 社会人になってからも毎夏、無人島に行っていました。社会人2年目の時、「無人島プロジェクト」を始めよう、と思い立ちました。一般対象の「無人島サバイバル体験」、「無人島キャンプツアー」。コロナの事態を受け休止中ですが、30人で2泊3日のツアーを組み立てています。答えのないことに挑戦し、問題を解決していく。企業研修や、無人島を舞台にした番組ロケの手伝いもしているんです。

――無人島を舞台にした番組。「獲ったどー!」っていう、あれですか?

 テレビ局、ブロガー、YouTuberからの依頼もあります。「ゴールデンボンバー」の無人島ライブのお手伝いもしましたよ。行政へのアドバイスにも従事しています。和歌山県のある島では、移住希望者を募り、無人島の対岸に移住してもらい、島をキャンプ場として活用する。その運営も行っています。

――梶さんのご活動から無人島の魅力を知った人たちからは、どんな反響があるのですか

 そうですね、2泊3日のキャンプツアーでは、20代の参加者が8割ですが、小学生がお父さんと一緒に参加したり、70代の方が参加したりもするんです。大学生と社会人って、共通の話題が普段ないと思うんですが、3日間、無人島で過ごすうち、新しい価値観に気付く、という人が多いようです。肩書き、年齢、そういうのを置いて仲良くなれる。そういうところから新しい仕事が生まれたり、付き合い始めたり、結果的に結婚したり。

『無人島冒険図鑑』巻末の漫画より

この1冊さえあればすぐ無人島に行ける

――本の章立てはユニーク。最初に、いろいろな無人島の紹介から始まります。「うわ、行きたいな」。そこから「準備編」。何を持って行くか。どうやって無人島に行くか。「あれ、もしかして、ホントに行けちゃうかも」って気になってきます。そして最後は、無人島で生き抜くための「実践編」

 この1冊さえあれば、無人島に行きたい時、すぐに行けるようにしたい。最初に魅力的な無人島を紹介し、興味を持って頂けたらと思いました。「行こうと思ったら自分も行けるんや」って知ってもらいたかった。実践編はこれまでの経験をベースに書きましたが、自分が感覚として分かる事柄を、正しい処置の手順にまで具体的に書き込むには、しっかりした裏付けが当然必要です。参考文献を読みあさり、落とし込む作業に没頭しました。食べられる生物、危険な生物、道具の使い方、調理の仕方。そもそもナイフの作り方、火の起こし方、ナイフ、食器の作り方……。

――ナイフの作り方では、竹、空き缶、石、釘を使ったそれぞれの作り方を伝授しています

 膨大でした。アウトドアの野外救急や、オートキャンプ、ブッシュクラフト、それぞれ特定の領域はあるんですけど、網羅しつつ、しかもそれを無人島で体験する本ってほぼない。「無人島の体験」だけを集めた本にしています。

――本をまとめる上で、新たに発見したことは?

 誰でもライトに行ける島、なかなか行けないけれど好奇心を呼ぶ島。幅広く紹介しました。改めてロケ旅行に出て取材したものが、冒頭の章に入っています。たとえば宮崎県の幸島(こうじま)。ここには初めて行きました。チャーター船だけで、定期船はありません。島でキャンプもできません。日本における霊長類学の生まれた島で、京都大学の研究施設が対岸にあるんですね。サルだけが住み、その戸籍まで作られているんです。

『無人島冒険図鑑』より

――面白そうな無人島ですね。「有猿島」ではあるのか…

 はい。不思議なのは、普通、サル山に行くと、エサをねだる。人間に威嚇してくる。でも、この島ではそういうことが一切ないんです。人間に興味がない。知らんぷり。学者に生態管理されていて、部外者はエサやり禁止。人間を無視する数十匹のサルが、ビーチのあちこちに佇んでいます。サルだけの世界に自分が入り込んだような不思議な世界観が広がっているんです。世界じゅうに、ここしかない場所だと思います。

――無人島を究めていくと、サルや魚、植生、毒を知ることになるんですね

 すごく興味深いんですよ。実際にツアーをやりましたけれど、フィリピンのある島は、人が住んでいても電気も水道もないんですよ。この時代に人々が生きるために、どういうことをしているのかが学べるんです。子どもは20歳になるまでに、親から家を建てる方法まで学ぶらしいんですよ。でもそれ。本来、分業されていない世の中では存在していた世界観かもしれません。そういうのを知ると、新たな好奇心が湧いてくるんです。

生きて行く上でなくしちゃいけない部分

――コロナ禍の下、なかなか旅さえもできない状況です。読者に伝えたいことは。

 「外に出たい」「新しいことをやってみたい」。不自由さを強いられるがゆえに出てきた「何か」があると思うんです。いつか、この本のなかで紹介されているチャレンジを経験してほしい。例えば、アウトドアに出かける機会が戻った時に、火を起こすことを、親子や仲間と実践してみる。教科書で習ったつもりが、実践できないことがたくさんあります。生きていく上で、なくしちゃいけない部分。「火がおきた」「魚を捕ってみたら美味しかった」。そんな感動を、コロナの前の時より何倍も増幅して楽しんでもらえるかなと思うんです。

――梶さんご自身は、この事態が過ぎ去ったら、どこに行きたいですか。新しく攻めたい島は?

 あります、あります。実は奄美大島付近って、あんまり行ったことがない。無人島を取り巻く環境って規制が多いんです。鳥獣保護区、保安林、国立公園・国定公園に指定されているか否か、火が使えるかどうか、木を切っても良いか。いろんな島で、何ができるのか。そんなことを見て回りたいです。全部の無人島にはおそらく行けないですけど、できる体験の幅、提供できる体験の幅を広げていきたいと思っています。