1日に何枚くらい写真を撮りますか? スマートフォンという名のカメラを誰もが持ち歩くようになり、写真は変わった。その意味を写真家の大山顕さんが『新写真論 スマホと顔』で掘り下げた。電子批評誌の連載に加筆し、書き下ろしの論考も加えてまとめた。
団地や工場など建造物を被写体としてきた著者は、米国の「9・11ミュージアム」に展示された犠牲者たちの顔写真に心を揺さぶられる。自身に子どもが生まれるとスマホで撮りまくるように。そうした変化が考察につながった。
革命をもたらしたのは自撮りとSNSだという。撮る者と撮られる者の対立をうやむやにし、撮影―現像―閲覧のプロセスは統合され、「いいね!」の獲得が重要になった。修整で「盛った」顔写真をくさす人もいるが、「『ほんとうの顔信仰』とでも呼ぶべき態度に、何やら優生学的な匂いを感じてしまう」とくみしない。
「写真とは何なのか」を言語化できるのが写真家であると著者はいう。その定義を地で行く一冊だ。(吉川一樹)=朝日新聞2020年5月16日掲載