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田中六大さんの絵本「うどん対ラーメン」 どっちがおいしいか、永遠のライバル同士が激突!

文:坂田未希子、写真:本人提供

うどんは優しくあっさり、ラーメンはくどい感じに

――ある日、うどんのもとに一通の手紙が届く。「そろそろ、うどんと ラーメンのどちらがおいしいのか、きめようでは ありませんか」。それは、永遠のライバル、ラーメンからの果し状だった! 「ナルトしゅりけん」「うどんしばり」など、突飛な攻撃や戦いぶりにワクワクさせられる田中六大さんの『うどん対ラーメン』(講談社)。作品誕生のきっかけは「うどん」だった。

 よく覚えていないのですが、別の絵本の打ち合わせで編集者から電話がかかってきた時、僕がうどんを茹でていたらしく、それがきっかけで「うどんを紹介する絵本を作ってみてはどうか」とお話をいただきました。最初は「たぬき」と「きつね」とか、関西と関東の違いとか、全国のうどんを紹介するものを考えました。でも、ちょうどその頃、山田風太郎の『甲賀忍法帖』を読んでいて、バトルもののパロディも面白いなと。うどんは決まっていたので、相手を誰にするか考えて、ラーメンは子どもにも人気があるし、蕎麦より好きかなと思って、ラーメンと戦う話になりました。

『うどん対ラーメン』(講談社)より

――ナルトに油揚げ、チャーシューなど、それぞれの美味しさや具を武器にした攻撃が面白い。

 最初は、お殿様の前で忍術を使って御前試合をするという話でしたが、殿様とか忍者要素が抜けていって、舞台も現代になりました。お互いに「こっちの方が美味しい!」って戦っているうちに、だんだんエスカレートして、めちゃくちゃになっていく感じにしたかったので、そのバランスを考えるのが楽しかったですね。気に入っているのは「モンスター召喚」のシーン。バカバカしくて面白いなと。

 うどんは僕がいつも描いているタッチの絵ですが、ラーメンは編集者からのリクエストに応えてがんばって描きました。うどんは優しくあっさりした感じ、ラーメンは濃い、くどい、油っぽい感じに。うどんと並んだ時に、そこでひと笑いあるといいなと。でも、善と悪との戦いにはしたくなかったので、ラーメンが悪役に見えないように工夫しました。どちらも美味しそうに描くのが難しかったです。食べ物を描くのは好きなんですけど、あまりリアルなものは描かないので、画力が必要ですね(笑)。

『うどん対ラーメン』(講談社)より

――戦いは次第に激しさを増していくが、最後にはなんだかほっこりさせられる。

 最初から展開は決めていました。ふざけた感じのオチも気に入っています。絵本が出る直前に、講談社でやっている「全国訪問おはなし隊」に参加した時、奈良県の小学校でプロの方が『うどん対ラーメン』の読み聞かせをしてくれたのですが、最後に子どもから「なんでやねん!」ってツッコミが入って、さすが関西だなとうれしかったですね。

――うどんとラーメンが戦う傍で、ふたりの戦いを眺めながら楽しく遊んでいる人間の親子が描かれているのも印象的だ。

 編集者と一緒に考えたアイデアです。日常感を入れることで、対決の異様さが際立つというか、同じ空間にいるんだけど、別の次元にいるみたいな。より戦いのバカバカしさを強調させたいと思いました。正義が悪をボコボコにするようなものは、あまり趣味ではないので、そうならないようにしました。

『うどん対ラーメン』(講談社)より

本当に好きなのはそうめん!?

――田中さんが絵本の仕事を始めたきっかけは漫画だった。「コミックファンタジー」という同人誌に載せたマンガが絵本作家・竹下文子さんの目に留まることに。

 子どもの頃から絵本とかマンガとか児童書とか、絵とストーリーがあるものが好きだったので、そういうのを描く人になれたらいいなと思っていました。竹下さんが僕の絵を気に入ってくれて、幼年童話『ひらけ!なんきんまめ』(小峰書店)の挿画を担当することになりました。とても嬉しかったですね。その後に、内田麟太郎さんが新人の画家でやりたいということで声をかけていただいて、『だいくのたこ8さん』(くもん出版)の絵を担当しました。

 もともと僕は細かい、ちまちました絵を描くのが好きだったんですけど、『だいくのたこ8さん』で求められていたのはドーンとした元気な絵で、僕自身もあんまり元気な人間じゃないし(笑)、難しいなって思ったんですけど、絵本の仕事ができるのがうれしくって、やります!って。絵のスタイルを確立するまでに半年くらいかかりました。今もオリジナルの作品より、絵を担当することが多いのですが、自分では描かないものも描かなくちゃいけないので勉強になりますし、面白いですね。

――絵と物語のあるオリジナル作品としては最初となった『うどん対ラーメン』。ところで、プロフィールには「うどんとラーメンを平等に愛する男だが、本当に好きなのはそうめん」と書かれているが?

 それは冗談というか、本当はうどんが好きなんですけど、うどんて書くと中立じゃなくなっちゃうし、お話にも蕎麦やスパゲティも出てくるので、作者がそうめん好きだったら面白いかなと思って(笑)。でも、麺類は何でも好きです。全ての麺は正義、麺って美味しいよねって、笑って読んでもらえれば嬉しいです。