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「THE FISH 魚と出会う図鑑」 思い出との邂逅を楽しむ、新感覚“図鑑エッセイ”

長嶋祐成「THE FISH 魚と出会う図鑑」(河出書房新社)より

 もうすぐ「海の日」。遠出ができる状況ではない中、海と魚に思いを馳せられる図鑑を見つけました。

 「THE FISH 魚と出会う図鑑」は、石垣島を拠点に活動する魚譜画家の長嶋祐成(ながしま・ゆうせい)さんによる“図鑑エッセイ”。幼い頃から魚や昆虫などの生きものが大好きだったという長嶋さんが、これまでに出会った魚たちの中から印象に残った魚を絵と文章で紹介してくれます。もちろん、図鑑というからには、和名や学名、分類、分布といった基本情報も記載されています。

 絵の美しさはもちろんのこと、魚との思い出とともに綴られる文章が秀逸です。読み手は長嶋さんの魚との出会いを追体験していく中で、魚や海にまつわる記憶を呼び起こされます。

 個人的に印象深かったのは、カクレイワガニとのエピソード。石垣島に移り住んでから都市生活がいかに光に満ちていたのかを実感したという長嶋さん。一方で、島では満月ともなると、文庫本が読めるくらいに夜空が明るいんだそう。島や街灯の少ない場所で夜を過ごしたことがある人なら、一度はこんな風に月の明るさを再認識したことがあるのではないでしょうか。

長嶋祐成「THE FISH 魚と出会う図鑑」(河出書房新社)より

 そんな満月の夜に遭遇したのが、腹部で孵化した幼生を海に放とうとするカクレイワガニです。よく見てみようと懐中電灯を向けると警戒されたため、長嶋さんは月明かりだけで観察をすることに。光を手放し、カニと並んで海を見る長嶋さんの姿を思い浮かべると、筆者も夜の海を訪れた際に味わった、海や闇と自分がなんだか一体化していくような不思議な感覚を思い出しました。

 図鑑にも情報がぎっしり詰まった正統派タイプや、ユニークな切り口でまとめたおもしろ系などいろいろ種類がありますが、本書は美しい画集でもあり、詩的な言葉が散りばめられたエッセイ集でもある稀有な図鑑。休みの日などゆったりとした時間が流れる中で気まぐれにページをめくりたい、そんな一冊です。