10年前にもショートショートを書いていた
――緊急事態宣言の期間中、毎朝8時19分(バイク)にnoteにショートショートをアップしていました。それらをまとめた本が『BKBショートショート小説集 電話をしてるふり』(ヨシモトブックス)として発売されます。
緊急事態宣言でほとんど仕事がなくなって、最初は夏休みが来た感覚だったんですよ。でも、次第に周りの芸人たちがYouTubeとかで色々発信しだしたから、「あれ、自分もなんかせなあかんのちゃうん」と思うようになって。
最初はYouTubeも考えましたけど、今年で芸歴17年目なのに今さら1日1本BKBの動画を上げてもしょうがない。そんなことを冷静に考えていた時に、後輩のオズワルド伊藤(俊介)が「noteって文章に特化したサービスがありますよ」と教えてくれたんです。伊藤も自粛期間中、ほぼ毎日noteを更新していたんですよね。
何を書こうか考えていた時にショートショートが好きだったことを思い出して、せっかくなら毎日やってみるかと思ってはじめました。10年くらい前に10本くらい書いていたことがあったので、その作品も使いながら投稿しています。
ちなみに朝8時19分にアップすることになったのは、トレンディエンジェルのたかしのアイデア。「毎日早起きですね!」とよく言われましたが、実際は昼夜逆転してるだけで、ずっと起きてて更新してから寝てました。
――自粛期間ならではの時間の使い方ですね(笑)。もともとショートショートはよく読んでいたのでしょうか?
代表的な作品ですけど星新一さんの『ボッコちゃん』はよく読んでいました。他にも藤子不二雄のSF短編漫画とか、クイッとひねりを効かせたオチがある短編がすごく好きだったんですよ。「最後まで読んだらなんかあるぞ」と思わせてくれる作品が好きで、乙一さんの『ZOO』なんかも夢中で読みました。
noteを読んでくれた人から「星新一さん好きだったんで、BKBさんのショートショートも好きです」と言われることがあります。共通点を見つけてくれるんですよね。でも、僕からしたら全然あの域には達していないし、ジャンルもちょっと違う。星新一さんはSFに特化してるけど、僕のはもうちょっと今の話を書いているんで。でも、そんな感想をもらえるってことは構成の真似ごとくらいはできてるんやろな、と自信になりました。
自分で泣いた「電話をしてるふり」
――毎日更新する中で、表題作の「電話をしてるふり」がSNSで話題になりました。
ショートショートをはじめてから1カ月くらいに投稿した作品ですね。もともと一人コントのネタ帳に「電話してるふりをする女の子」とメモしてて、これをショートショートにしてみようとなんとなく思ったんです。考え始めたら「電話はお父さんからで、実は殉職してて……」と、どんどんイメージが膨らんでいきました。
書いているときは脳みそではできあがってるのに、指が追いつかないくらいでしたね。カッコいいこと言ってますけど。お笑いのネタでも、良いコントほど早く書けるんですよ。それに近いのかもしれません。
noteにアップしたら、すぐに「めちゃくちゃ泣けたんですけど!」みたいな長文の熱いコメントがいくつもつきました。「あ、これいつもと違うかも」と思って、自分でも読み直してみたんですよ。「うわー、ええ話やな……」と思って、さっき自分で書いた小説なのに読みながら泣きました(笑)。それからTwitterにアップしたら、芸人仲間のエハラマサヒロさんやAKB48の峯岸みなみちゃん、フォロワーの方がたくさんリツイートやコメントをくれて。「ショートショートでこんなにバズるもんなんやな」と驚きながら見ていました。
――読んでいても、筆が乗っているのが伝わってきます。他の作品より文章も長めなので、きっとアイデアが湧き出てきたんだろうなと感じました。
結果的に少しだけ長くなりました。でも、一息で読めると思います。ストーリーもシンプルですし、難しい言い回しも使ってないですから。
――シンプルでわかりやすいのは、「電話をしてるふり」に限らずBKBさんの作品の特徴です。
ちょっとカッコつけた表現をすることはあるけど、基本的にわかりやすく丁寧に書くのを心がけていますね。そうすることで、活字慣れしてない人やお笑いファン、ショートショートを知らない人にも読んでほしいなって思っています。
読書が苦手な人って、やっぱり長くて集中力が続かなかったり、意味がわからなかったりして途中でやめちゃうんだと思うんですよね。でも、数分で読めて綺麗なオチがあることがわかってるショートショートなら手に取りやすいじゃないですか。
『電話をしてるふり』には書き下ろし含め50本のショートショートが入ってるので、気に入る作品もあると思います。
ネタ作りとショートショートの共通点
――今回、改めて一冊として読んでみてどうでしたか?
ショートショートの魅力を詰め込めたなと思います。自分、一度に全部楽しめるとか、なんかお得なのが好きなんですよ。洋服でもリバーシブルとかよく買っちゃうし、福袋みたいな「たくさん入っとるやん!」っていうのも好き。単独ライブも漫談、BKBネタ、コント、サプライズゲストと盛りだくさんになるんです。その詰め込みたい願望を叶えられたと思います。
個別のお話では、恋愛がテーマの作品が多いなと思いました。恋愛体質なんで、自然とそういうテーマがでてくるんですよね……。「昨日も書いたのに、また恋愛書いてるやん!」なんてこともよくありました。不倫が話題になったら不倫テーマで書きましたし、「偏見→偏見→偏見」のようなコンパでうまくしゃべれなかった実体験を参考にしたものもあります。
ハッピーエンドの作品も多いです。必ずハッピーエンドだとつまらないのでバッドエンドも入れてますけど、平和主義なんで優しい話が書きたいんですよね。
でも、書きながら「ショートショートのテーマって無限にあるな」と思いましたね。「単語の数だけテーマが生まれる」というか。またカッコいいこと言いましたけど!
――作品のテーマはどんな風に考えているのでしょうか?
実体験、「後輩から単語だけもらって書く」など色々ありますが、ネタ用のメモから広げていくことが多かったです。「“あちらのお客様からです”って言いたい奴」とか、そんなネタになる前の切れ端がいっぱいあるんです。
ショートショート作家の田丸雅智さんが「情熱大陸」で、何かと何かをつなぎ合わせると物語ができると話していました。コントのネタも全然別の何かを組み合わせて作るので、ショートショートと近い部分があると感じます。起承転結をしっかり作って、最後でわかりやすくひっくり返す、というところも同じですよね。
コントは合間にボケとツッコミを入れる必要があるけど、ショートショートはそれをやらなくていいので、ある意味こっちのほうが楽だったかもしれません。コントにするには弱いしやりにくいネタだけど、ショートショートですごく生きたというケースもたくさんありますね。
――BKBさんが特にお気に入りの作品はありますか?
「起承転結・結・結」は面白い構造で、ショートショートっぽいけど読んだことがないものが書けたと思います。タイムマシンが出てくる「タイミング」もザ・ショートショートのSFという感じだし、コロナが流行している現在をうまくいじれたんで気に入っています。
「いつも悪いな」とか「人間レビュー」は、「世にも奇妙な物語」っぽい作品。コミカライズとか、映像化とかされないかなと思ってます。
書き下ろしも読んでほしいですね。「思い出を食べるチャペルと思い出がないミナトの物語」なんかはオズワルドの伊藤がくれたタイトルをもとに想像を膨らませたもの。普段書かないファンタジーな作品で、いいお題をくれたなと思います。
「キャッチボールガールズバー」は、田丸さんが話していた「何かと何かの組み合わせ」を意識して作った作品。面白いのが書けたと思うし、田丸さんに読んでもらいたいなと思いますね。……いや、やっぱ怖いかな。「構成が甘い」とか言われんかな……。
帯文を寄せたのは吉本ばなな
――そして帯文は吉本ばななさんが書いています。
そうそう。ばな姉が書いてくれました。ばな姉、僕の単独ライブに3年くらい連続で来てくれたんですよ。しかも招待したわけじゃなくて、自発的にチケット買ってきてくれて。Twitterにも「やっぱBKB才能あるわ〜」って書いてくれたりしてたんです。
ライブに来てくれたときにちょっと話をするくらいの交流でしたけど、本を出すことになって推薦文を誰に書いてほしいか考えたとき、一番に浮かんだのが吉本ばななさんでした。僕から直接連絡して、快く引き受けてもらいましたね。
――「彼はいつも少しだけ哀しい、別の世界を見ているんだね」という一文を寄せてくれていますが、読んだ時どう思いましたか?
「さすが一行にまとめるなあ」と思いましたね。ショートショートなんていろんなジャンルの話が入ってるから、一言にまとめるのって難しいじゃないですか。でも、たとえば「電話をしてるふり」なんてまさに「少しだけ哀しい、別の世界」の話だし、オチでひっくりかえるショートショートの展開は基本的に「別の世界」と言えるかもしれないし。うれしかったですね。
ちなみに、「BKB(ばなな感心びっくり!)」というのも考えてくれました。ばな姉、だいぶ頭悩ませたと聞いてます。ほんとありがたいです。まあ、僕からしたら秒で浮かぶBKBですけどね(笑)。
『電話をしてるふり』は僕の作家デビュー作ですが、まだ知り合いのお笑い芸人やファンの方など身内が評価してくれている段階。BKBのことを知らなくて、ショートショートや本がただ好きな人がどう読むのか知りたいので、ぜひ手にとってみてほしいですね。ブック、買ってね、僕の。BKB!