ニューヨークのメトロポリタン美術館で毎年開催されるファッションの祭典、METガラ。2019年は、主催者でアメリカ版『ヴォーグ』編集長アナ・ウィンターの、上半身をフェザーにこんもり覆われたスタイルの写真がネットニュースに出回った。グラムロックか、はたまたジャニーズの衣装かっていう派手さだ。
テーマは「キャンプ:ファッションについてのノート」だった。出典はスーザン・ソンタグの「《キャンプ》についてのノート」(『反解釈』収録)で、「キャンプ」とは、不自然で人工的で誇張された表現を意味する。アナ・ウィンターはその一節、〈キャンプとは、三百万枚の羽根でできたドレスを着て歩きまわっている女である〉を実践したのだろう。「素敵なドレスだけどキャンプじゃない」という批判もあったみたいだが。難しい。
過剰さを生み出す人の情熱や、通俗性が聖性に反転する瞬間がその精神なのだと思う。「悪趣味」や「キャンプ」という言葉で、そういったものが注目されていた九〇年代にこの本を知って、折にふれて読み返す。注意深く、複眼的な見方に、いつ読んでも触発される。〈キャンプ趣味とは一種の愛情――人間性に対する愛情――である〉が大事。「キャンプ」には厳しい審美眼と、「愛(め)でる」という温かな感情とが複雑に絡み合う。
この評論の書き出しに〈名づけられてはいても説明されたことのないものがたくさんある〉とある。そういうものを見つけて、面白くしていきたいのだ。=朝日新聞2020年8月19日掲載