「考えるナメクジ」「アリ語で寝言を言いました」書評 非注目分野の刺激的探究に喜び
ISBN: 9784865812459
発売⽇: 2020/05/21
サイズ: 19cm/188p
ISBN: 9784594085469
発売⽇: 2020/07/02
サイズ: 18cm/246p
考えるナメクジ 人間をしのぐ驚異の脳機能 [著]松尾亮太/アリ語で寝言を言いました [著]村上貴弘
刺激に満ちた探究の喜びが感じられる2冊。役立つかわからない基礎的な研究の意義も伝わってくる。
神経科学の王道の研究に従事していた『考えるナメクジ』の著者は、ナメクジの脳の「うそやろ!?」という不思議さに魅せられた。
雌雄同体、頭部の孔(あな)から産卵、呼吸と排泄(はいせつ)は同じ孔。脳の真ん中を食道が貫くナメクジ。エサを食べたとき不快にさせると、それを食べなくなり、さらに高度な学習もできる。脳の一部を破壊しても1カ月で再生する。侮れない。
変な現象を見つけ仮説を立てて実証する営みを続ける著者。注目されない生物だから研究仲間は少なく、市販の実験用具もない。社会に役立つ研究なのか問われ、研究費も獲得しにくい。だが、注目分野への研究の集中に疑問を投げかける。後追いになりかねない。一方、ナメクジ研究は自分がやらないと絶対に進まない。そんな分野は、次々に面白いことがわかる新天地でもあるのだ。
『アリ語で寝言を言いました』の著者は、「キュキュ」「キャキャ」というアリの音声解析に没頭、寝ぼけてつぶやき、娘が驚く。
アリ社会の役割分担は知っていても、その特化にうなる。お盆のような形の頭で巣の入り口を閉じる「扉役」がいるナベブタアリ。蜜を腹にためる「貯蔵庫役」がいるミツツボアリ。扉や貯蔵庫として全うする生涯なのだ。ジバクアリは毒腺を爆発させて敵を道連れに死ぬ。すさまじい。
アリは5千万年、ほぼその生態を変えていない。20万年程度の新参者である人間にとって持続可能な社会の先生だという。原産地でひそかに生きてきたヒアリが遠い土地で繁殖して恐れられるのは人間の活動による。熱帯の森をはいずり、アリに刺され、自然と格闘しながら多様な生きざまを探究してきた著者は恐怖を覚える。恩恵を受ける生態系にむちゃを続けると、人間は生態系からパージされるのではないか、と。
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まつお・りょうた 1971年生まれ。福岡女子大教授▽むらかみ・たかひろ 1971年生まれ。九州大准教授。