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沸騰する音楽と文学の結節点 「音楽×文学」特集

文・福アニー

 音楽と文学の接近が加速している。ミュージシャンが本を出版することは珍しくなくなったが、2人組バンドのヨルシカは新作「盗作」の初回生産限定盤で、CDとカセットテープとともに、コンポーザー&ギタリストのn-bunaによる小説を付属。装丁も書籍型と重厚感たっぷりの仕上がりになっている。

 前作「だから僕は音楽を辞めた」と「エルマ」にもそれぞれエイミーとエルマという主人公がおり、二人が旅先でしたためた日記帳と風景写真を再現して、CDとともにリスナーが追体験できる仕掛けがあった。以前に行われた作家の三秋縋との鼎談で、n-bunaは「CDとして物を出すことの価値」について、「物語の中の一装置としてCDがあって音楽がある」と熱を込めて語っている。物語という、より大きな世界の中心に音楽を据えるというヨルシカのコンセプチュアルな試みは、現行シーンでも異彩を放っているといえる。

 『君の膵臓をたべたい』『青くて痛くて脆い』が映画化された作家の住野よるは、初の恋愛小説『この気持ちもいつか忘れる』(新潮社)で、彼が敬愛する4人組ロックバンドのTHE BACK HORNとコラボレーション。作品の構想段階から打ち合わせを重ね、創作の過程を共有しながら原稿執筆と曲作りを同時進行させ、お互いに影響を与え合いながらひとつの作品を生み出した。

 「住野さんから最初の原稿をいただいた時は、音楽でいえばデモ音源を聴いた時みたいな、生々しいものに触れた感じがしました。本になる前の段階の小説を読む機会なんて、普通ないじゃないですか」とTHE BACK HORNギタリストの菅波栄純が振り返れば、住野は「小説と音楽の境界線を超えようとする、小説と音楽で完成する作品」と意気込む。THE BACK HORNは映画「アカルイミライ」や「ZOO」、アニメ「機動戦士ガンダム00」の主題歌などでも強烈なインパクトを残していたので、小説と溶け合った時にどんな景色を見せてくれるのか興味深いものがある。

 「小説を音楽にするユニット」を掲げ、昨年から今年にかけて「夜に駆ける」がバイラルヒットしたYOASOBIは、『夜に駆ける YOASOBI小説集』(双葉社)を刊行。これまで発表してきた4曲の原作小説を一冊にまとめたものだが、コンポーザーのAyaseは「ただ小説を説明するだけの楽曲にならないよう、いち読者としての主観や主人公の感情も入れながら」楽曲を作っているという。その距離感がどう作品に反映されているのか、読んで、聴いて、比べるのもまた楽しいだろう。

 ミュージシャンが自身の音楽世界を押し広げるような小説を書き下ろす、音楽家と作家が共同作業でひとつの作品を作り上げる、小説の世界観を音楽で提示する――。アプローチの仕方は様々だが、それぞれに音楽と文学というフィールドを新たな実験場にしようという気概が伺える。

 最近だとオンラインゲーム「フォートナイト」内での米津玄師や、エクスペリメンタル・ソウルバンドのWONKが行った3DCGバーチャルライブが、ライブの代替ではない配信の映像表現として印象的だった。また、先述したヨルシカの楽曲「逃亡」とコトヤマの漫画『よふかしのうた』がコラボレートしたMVでは、全国津々浦々の風景映像とトリミングされた漫画、インサートされる文章、そしてジャジーな音楽が渾然一体となり、家にいながらにして旅情が味わえて良かった。ロックバンド・クリープハイプの新曲「幽霊失格」の世界観を同時体験で楽しめるオンラインドラマの試みも目を引いたので、映像・音楽・文学の領域が化学反応を起こしながら、さらに活性化されることを願う。

『よふかしのうた』PV ♪「逃亡」 ヨルシカ

 全世界が未曽有の事態になった今だからこそ、表現にできることはまだまだあるはず。現実世界ではなかなか密になれないが、音楽と文学がもっと密になったらどんな世界が広がっているのだろう(もちろん音楽は音楽、文学は文学と、ソーシャルディスタンスを取るのもあり)。それぞれの可能性を探りながら、刺激的で新しい地平を見せてほしいと思う。個人的には小説家の音楽が聴きたいので、どなたかリリースよろしくお願いします。

 ということで、好書好日の「音楽×文学」特集、はじまりはじまり。

「音楽×文学」特集コンテンツ

「好書好日」で紹介したミュージシャンの本