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多摩川の河川敷に暮らす猫たちと、その世話をするおじさんたちとの交流を綴った写真エッセイ 太田康介さん『おじさんと河原猫』

撮影/中惠美子

 多摩川の河川敷に捨てられた野良猫たちがいることを、NHKのテレビ番組で知ったのは2009年のことでした。うちで二匹の猫を可愛がっていた僕はいてもたってもいられなくなり、別々の河原で猫たちと世話をしていた二人のおじさんの写真を撮りはじめました。一人は加藤さんというおじさんで段ボール回収業をしていました。もう一人は高野さんというホームレスのおじさん。二人のおじさんは、自分が食べるのも精一杯の状況で、人間に捨てられた猫たちのことを雨の日も風の日も世話していたのです。

 加藤さんは、「猫の世話ばかりし過ぎて奥さんに逃げられた」らしいのですが、いつもニコニコして幸せそうでした。身勝手な人間たちに対する怒りもなく、世の中のすべてを達観しているような仏様みたいな方でした。一方、高野さんはすごく明るい半面、熱い心も持っていて、猫を虐待する人間に腹を立てていました。二人とも、「猫がいれば他は何もいらない」と思っているようにも見えました。

 加藤さんが世話していた猫11匹はあまりにも劣悪な環境にいたため、里親を探すことになり、最後に残った白い雌猫をうちで引き取ることになったんです。シロと名づけたこの猫はとても高貴な雰囲気の美しい猫で、頭が良くて性格もやさしく、僕はすっかりメロメロになってしまいました。恥ずかしながら、年甲斐もなくシロを愛していましたし、シロも他の猫を寄せつけないほど僕のことを愛してくれていたんですね。

 2017年、シロは脳の病気で亡くなりましたが、河原で7年、うちで8年弱生きてくれたので長生きしてくれたほうだと思います。うちではじめて飼った「とら」と「まる」という猫も、昨年立て続けに亡くなりました。昨年は台風19号で多摩川が氾濫して、猫を助けるために河原にとどまっていた高野さんも流されてしまったのです。猫と共に生きて、猫と共にこの世を去った高野さんの生き方は最後まで一貫していました。河原で生きていた猫たちと二人のおじさん、そしてシロという魅力的な猫がいたことを、一人でも多くの人に知ってほしい。そんな思いで写真と文をまとめたのが『おじさんと河原猫』です。

 僕はもともと報道カメラマンで、若い頃は海外の紛争地を撮影していたこともあります。東日本大震災の直後は、福島第一原発20キロ圏内にのこされた動物たちの姿を広く知ってもらいたくて、1年間ほど撮影のために現地に通い続けました。これは当時ほど頻繁ではありませんが、今も通い続けています。そこで人間だけを頼って生きてきた動物や家畜たちの無惨な死に様をたくさん見て、これからは動物のため、特に猫のために生きようと心に決めたのです。同時に「人間なんてろくなもんじゃない」と、申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。僕も人間なので少しでも罪滅ぼしするため、里親がいない猫がいたら責任が持てる範囲で飼い続けようと思ったのもその頃です。今は4匹の猫を飼っていますが、死ぬまでにあと何匹飼えるかわかりませんね。僕が死んだら、先に亡くなったうちの猫たちの骨と一緒に散骨してほしい。それだけは妻にお願いして約束してもらっています。