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「ネヴァー・ゲーム」書評 聖地の内幕を見せる流浪の探偵

評者: 大矢博子 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月07日
ネヴァー・ゲーム 著者:ジェフリー・ディーヴァー 出版社:文藝春秋 ジャンル:小説

ISBN: 9784163912691
発売⽇: 2020/09/25
サイズ: 20cm/383p

ネヴァー・ゲーム [著]ジェフリー・ディーヴァー

 四肢麻痺(まひ)の捜査官、リンカーン・ライム。人間嘘(うそ)発見器ことキャサリン・ダンス。ふたりの人気者を世に送り出したジェフリー・ディーヴァーの新シリーズがスタートした。
 新たな主人公はコルター・ショウ。懸賞金付き失踪人探しのプロだ。今回はシリコンヴァレーに住む父親の依頼で、失踪した娘を探すことになった。
 調査を進めるうちに、娘は何者かに誘拐されたことが判明。ショウは救出に向かうが、そこで思わぬ展開が待ち受ける。
 さらに誘拐事件は続く。どうも犯人はとあるビデオゲームを模倣して、被害者を監禁しているらしい。一刻も早く被害者を見つけなければ命にかかわる。はたしてショウは被害者たちを救えるのか。そして〈ゲーマー〉と呼ばれる犯人の狙いは何なのか――。
 緻密(ちみつ)で細部を見逃さない冷静な推理と、窮地から鮮やかに抜け出す父親仕込みのサバイバル技術。頭脳戦とアクションの両方をたっぷり堪能できる。もちろん〈どんでん返しの帝王〉たるディーヴァーの持ち味も健在だ。何度ひっくり返せば気が済むのかと言いたくなるほどの逆転劇は期待を裏切らない。
 だがそこまでなら、従来のシリーズも同じ。新シリーズ最大の特徴は、ショウが失踪人や逃亡犯に懸賞金がかけられたら現地へ飛んで調査する〈流浪の探偵〉という点にある。
 今回の舞台、シリコンヴァレーはITの聖地だ。ビデオゲーム業界の内幕、もとからの住民とIT関係者の分断や格差など、シリコンヴァレーという土地特有の問題が浮き彫りになる。この場所だからこそ起きた事件を描くことで、アメリカ社会の〈地方の顔〉を炙(あぶ)り出しているのだ。
 著者はショウという流浪の探偵を使い、毎回異なる場所を舞台に据えるという手法を可能にした。次はどの町の、どんな顔を見せてくれるのか。楽しみな新シリーズの誕生である。
    ◇
Jeffery Deaver 1950年、米シカゴ生まれ。作家。米国では本シリーズの続編『The Goodbye Man』が既刊。