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「Au オードリー・タン」 透明性で衆知集め 価値を生む 朝日新聞書評から

評者: 坂井豊貴 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月07日
Auオードリー・タン 天才IT相7つの顔 著者:アイリス・チュウ 出版社:文藝春秋 ジャンル:伝記

ISBN: 9784163912868
発売⽇: 2020/09/30
サイズ: 19cm/271p

マスクアプリ開発で世界に名を馳せた台湾の天才IT担当大臣・オードリー・タン。IQ180だが学歴は中卒。性別も越えた。知られざるその個性と哲学に迫る。レポート「台湾新型コロ…

Au オードリー・タン 天才IT相7つの顔 [著]アイリス・チュウ、鄭仲嵐

 未来に変化が起こることを願うなら、いま小さな変化を起こす必要がある。そう考え行動する台湾の若きIT大臣オードリー・タン(唐鳳=タンフォン)の評伝である。天才ハッカーで、保守的な無政府主義者を自認する。頭脳は明晰(めいせき)で、性格は温和。「弱い人の気持ちに寄り添う」人だと評される。
 コロナ禍のマスク不足では、在庫マップのアプリを数日で完成させ、その名は日本でも広く知られるようになった。アプリは一人で作ったわけではない。「大勢の人のために行うことは、大勢の人の助けを借りる」オードリーは様々な人や組織をつなぎ合わせる。設計は専門家に頼み、民営の政治サイトで仲間を募り、自身は政府から承認や協力を引き出す。大臣ではあるが「政府のためではなく、政府と共に」働く。民営の政治サイトはg0v(ガブゼロ)という。そこには政府に情報公開や透明性を求めるコミュニティーがあり、オードリーはg0vの創設メンバーの一人である。
 オードリーは活動の全てに「ラディカルな透明性」を実施している。日々のスケジュール、会議での発言、インタビュー内容、訪問者との会話などは、全てサイトに公開する。透明性を重視するのは、余計な衝突や誤解を減らすためと、相互理解を促すためだ。IT大臣になる前には、ひまわり学生運動で、状況をライブ配信できる環境を構築した。学生や警察が、それぞれ何をしているか見えるようにしたのだ。不当な暴力が振るわれていないと分かれば、過剰に反応せずに済む。事実の発信はデマやそれが生む混乱を抑制するのだ。
 またオードリーは、多様な人々が公共の決定に参加して、衆知が集まることを重視する。参加そのものの価値を重んじるからというよりは、有益な意見を政府に吸収させるためだ。その際、透明性によって適切な情報があれば、人々の意見の精度は上がるだろう。オードリーは組織や制度を、一種の情報処理システムとして捉える視点をもっている。こうした視点はハッカー的というよりは、社会科学者的である。
 情報の特徴は、上手(うま)くつなぎ合わせると、大きな価値が出ることだ。マスクアプリでいうと、アイデア、その設計の専門家が誰であるか、政府が保有する住所データなどは、すべて情報である。それらをオードリーがつなぎ合わせると、マスクアプリとして結実する。
 インターネットは自由や民主主義にプラスに働くのか。それともマイナスに働くのか。そのような問いの立て方は正しくないのだろう。どうすれば我々はプラスに働かせられるか。オードリー・タンはその前向きな答えを見付けようとしている。
    ◇
 Iris Chu コラムニスト。台湾のビジネス雑誌の編集長などを歴任。▽Churan Tei 1985年生まれ。大学在学中に日本へ留学。BBCなどで記事を執筆している。本書は2人が日本向けに書き下ろした。