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「社会を知るためには」書評 つながりの緩さが創造性の源に

評者: 宇野重規 / 朝⽇新聞掲載:2020年11月07日
社会を知るためには (ちくまプリマー新書) 著者:筒井淳也 出版社:筑摩書房 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784480683823
発売⽇: 2020/09/09
サイズ: 18cm/221p

社会を知るためには [著]筒井淳也

 社会とは私たちがつくり出しているものだ。日々、私たちはそれぞれの思いにしたがって行動している。それが集まってできたのが社会なのだから、当然、私たちは社会のことをよく知っているはずだ。ところが実際には、社会の動きがどうもよくわからない。グローバル化も、少子化も、地球温暖化も、コロナの感染拡大も、私たちの予想は裏切られるばかりだ。専門家のいうことも、限定された領域を越えると、途端に怪しくなる。複雑性や不確実性が日々強調されるなか、考えても無駄だと思わず耳を塞ぎたくなっても無理はないだろう。
 そんな人に手にとって欲しいのが本書である。社会学の基礎的な考え方を初心者に向けて説明し、なぜ「意図せざる結果」が社会に生じるのかを、ていねいに解説してくれる。語り口はソフトで、あげられる事例も身近な話題が多いが、著者の学問に対する鋭敏な問題意識が貫かれていて、本格的な社会科学入門ともなっている。個々の行為が制度や社会構造に規定される一方、行為によって制度や構造が変化していく動態がその鍵となる。
 興味深いのは、本書のキーワードの一つが「緩さ」であることだ。社会は複雑な要素から成り立っているが、それらのつながりは実はかなり「緩い」場合が多い。それらの要素は微妙なバランスの上に成り立っており、一つを動かしても、思いがけない変化が生じる。
 著者はこの「緩さ」が社会の予想しがたさを生む一方、人間の自由や創造性の源にもなりうるという。ささやかな試みが大きな変化を生み出す可能性もある。
 意外なことに、本格的な社会学の入門書の結論は生き方の示唆である。「ミスは複合的要因で生じるから、ミスした人を安易に責めない」「安定(惰性)と変化(反省)のバランスが大事」など、不安に苛(さいな)まれる私たちへのエールとなっているのが印象的だ。
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 つつい・じゅんや 1970年生まれ。立命館大教授(家族社会学、計量社会学)。著書に『仕事と家族』など。