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#2 イラストレーター中村佑介さん「男性作家が描く、女性に選ばれる女性画」 ベストセラー請負人が細部に込める魂

 森見登美彦さんの小説『夜は短し歩けよ乙女』(角川文庫)や420万部超のベストセラーとなった東川篤哉さんの『謎解きはディナーのあとで』(小学館)、そして与謝野晶子の歌集を歌人・俵万智さんが現代にアレンジしてよみがえらせた『俵万智訳 みだれ髪』(河出書房新社)…。鮮やかな色を大胆に配置し、独自の構図で描く女性像が特徴の中村佑介さんの装画は、多くのベストセラーの表紙を飾ってきた。

 人気ロックバンド「ASIAN KUNG-FU GENERATION」のCDジャケットから食品のパッケージ、教科書の表紙に至るまで、縦横無尽に活躍する中村さんに、イラストレーションや本の装画という仕事について聞いた。

男性作家が女性を描くということ

 中村さんの学生時代のデザインから最新作まで、439点を原画とともに展示する「中村佑介展 BEST of YUSUKE NAKAMURA」が東京ドームシティ・ギャラリー・アーモで開催中だ。18年間の活動の集大成となる展示会場に足を踏み入れると、中村さんの描いてきた女性たちが次々に目に飛び込んでくる。

 一人ひとりは、とびきり可愛く美しいわけでも、セクシーに描かれているわけでもない。けれど、ユニークな構図の上に描かれた女性たちは、圧倒的な魅力で見る人に迫り、目を釘付けにする。

 どうして、こんな女性を描けるのだろう。尋ねると、中村さんは大学時代に感じた疑問が発端だと教えてくれた。

 「僕が大学生のときは、ゲームや漫画やアニメの魅力的な女性像って、ミニスカートで胸の谷間が見えているキャラクターが多かったんですね。普段の日常を生きていて、露出度で異性を好きになることはないのに、なぜか絵においては”清純派”という設定でもそうなってることが多くて。男性作家が男性のみをターゲットに、また”女性”ではなく”女体”を描いているのがもったいないなと感じていました」

 「だから自分は仕草や表情や世界観で女性を描くべきだと思って。女性の作家は女性だから出来るんですけど、僕もそれに挑戦してみたいと思って描き始めましたね」

 中村さんは、女性が着るアイテムの構造を、実体感をもって具体的に描く。スカートの縫い目、パーカーのサイズ、はだけた服から見える肌着……。細部にリアリティがあるからこそ、現代を生きる女性像として浮かび上がってくるのだ。

 「僕の描く女の子は、トイレマークに毛が生えたくらいのディフォルメなんですけど、ちゃんとチャックがあるスカートを履いて縫い目が見えることで、観る人の頭の中で完成していく。誰か実在する人を描いている、と脳が錯覚するんですね」

装画は「本の要約です」

 中村さんは、小説の装画でも、多くの人の記憶に残る作品を多数手がけている。森見登美彦さんの小説『夜は短し歩けよ乙女』や『四畳半神話体系』、東川篤哉さんの大ベストセラー『謎解きはディナーのあとで』シリーズなどを覚えている人も多いだろう。

 そんな装画の仕事について、中村さんは「本の要約です」と一言で表現する。

 「帯文と一緒です。その本に合った帯文は編集者が考えているじゃないですか。読んでみたいと思える、まさにそれをビジュアル化させたものを表紙にすべきなわけで。イラストでできるなら一瞬で伝わるわけじゃないですか。300ページとか何万字以上の原稿があるなら、僕の考える余地はなくて、より多くの魅力的な情報をビジュアルに詰め込んだ方がいい」

 たとえば『夜は短し歩けよ乙女』を、中村さんはこう料理する。

 「森見さんの小説は、京都が舞台なことが多いので和風なモチーフが多めに入っています。それ以外に、赤色でも、普通ならピンクとかビビッドな赤にするけど、赤茶けた色や朱色を使うことによって、ちょっとノスタルジックな文体なのかな、という作家性も伝えられる。色やモチーフや構図で、直感的に伝えることができるんです」

 「表紙に描いたのは、特徴のない、誰でもない女の子と男の子なんですよ。小説では匿名性を出すというか、読んだどの人も自分が正解だって思えるようにしないといけない。多分そういう意図があって、森見さんも主人公の名前を『先輩』や『私』にしてると思うんですよね」

小説の表紙が「退屈」だった10代

 10代の頃の書店での経験が、中村さんの装画の原点だ。漫画に親しんできた中村さんには、小説コーナーは率直に「退屈な表紙」ばかりに映った。

 「イラストレーションの技術書を探しにいった時だったと思うんですけど、90年代までの表紙は、地味というかぼんやりしているというか。人間の顔がないとか、後ろを向いているとか。大人向けの小説はそんな表紙か、ヘタうまのデザインの2パターンしかなくて」

幼い頃に夢中になったのは鳥山明さんの『ドラゴンボール』の扉絵と「ビックリマンシール」のイラスト。子ども向けでも大人が決して手を抜かない、丁寧に描く仕事を学んだという。

 漫画世代でも、手に取りたくなる表紙を描けないだろうか。このときの思いが、若い読者層と小説に橋をかけるような中村さんの作風につながっていく。

 「イラストレーションで『主人公の顔はこれなんです』って具体性を示してあげて、漫画世代でも手に取りやすい、それでいてキャラクター性に寄りすぎず、ネタバレにもなってなくて『読みたいかも』と思えるバランスがあるんじゃないかなと。本の表紙はそれをずっと試している感じです」

 「ASIAN KUNG-FU GENERATION」などのCDジャケットにも通じる発想なのだろうか。

 「それこそビートルズの時代から絵は使われていて、大瀧詠一さんのジャケットも絵だった。元々ああいう具体性を持ったイラストレーションは、日本では児童書以外では本の表紙にあまり使われてなかったはずなので。そこをできるはずだと思ってやっていますね」

『セーラー服と機関銃』など赤川次郎さんの角川文庫シリーズの装丁も手がける。

『謎解き』は「緑と決めていた」

 中村さんは、手描きでペン入れし、スキャンしたデータを手作業で修正したうえで、ぬり絵のようにマウスで色を塗っていく。ペンやタブレットは使わない。「アナログなのかデジタルなのか。誰もやってない面倒くさい方法で色付け作業をしています」と話す。

 中村さんが原稿を読んで構想し、絵を完成させるまで約2週間。一連のプロセスの要となるのが、最初にノートに大ざっぱに描くラフ、つまり設計図だ。この段階からメインカラーはほぼ決まっているという。

 大ベストセラーとなった『謎解きはディナーのあとで』の表紙は、ライトグリーンが特徴的だが、これも当初から緑と決めていたそうだ。

 「この本で重要なのはターゲット層」と、中村さんは語る。

 同書が発売されたのは2010 年9月。当時、ミステリーの売れ筋だったのは、『金田一少年の事件簿』や『名探偵コナン』などの漫画だった。そんななか『謎解き』は、「低学年の子どもや若い女性も読める小説のミステリーを」という意図から生まれた作品だった。年末が近づき、書店に赤やピンクなど暖かい印象の本が並び始める時期でもあった。

 「赤が多いタイミングで緑を置くと、ものすごく目立つんです。赤と緑は補色の関係なので。また、子どももターゲットに含まれているので、従来のミステリーのような黒赤じゃなくて、赤ほど明るいイメージでもなく、青ほど冷たいイメージでもない……緑色だなって。ターゲット層とタイミングを考えたらそれ以外はなかった」

 「それから、表紙で遊んであげた方が映えるだろうなって。お嬢様でちょっと高飛車とか、解決するのは執事で毒舌とか、警部はドジなんだけど金持ちでキザ、みたいな、それまでの東川さんの作品以上にキャラクター付けされていたので、アニメの原作があるような感じで仕立てた方がいいんだろうなって」

 こうして表紙が描かれた『謎解き』は、2011年の本屋大賞を受賞。後にシリーズ420万部を突破するなど、子どもから大人まで、世代を超えて愛される不動のミステリーとなった。

10年前、2年がかりで教科書『高校生の音楽』(教育芸術社)の表紙を手がけた。20代の若者が捨てずに持っていた教科書の写真をSNSに投稿すると、「ああ、この仕事成功したんだな」とほっとするという。

現代版『みだれ髪』の表紙に挑む心境

 最後に、『俵万智訳 みだれ髪』の装画について尋ねると、中村さんは、「あれはね、本当にうれしくて」と言葉を紡いだ。

 「与謝野晶子さんに俵万智さん。編集の方も女性で、デザイナーも名久井直子さん。女性の布陣ですよ。じゃあ僕は現代の与謝野鉄幹かと。鉄幹は晩年働かなかったけど(笑)。当初の”女性が不快にならない女性像を男性作家は描けるのか”という挑戦を、プロの方たちから合格ハンコをもらえたような気がして、胸を撫でおろしました」

 「当時の日本で、女性差別と真っ向から戦っていた与謝野さん。『みだれ髪』って言うなれば、“現代のエロツイッター”なわけですよ。世の中でバズって、いろんな人や新聞からも批判されて。女性が能動的に性を描くなんて何事や!って炎上してた時代だったわけですよ。そんなリングに俵さんが上がって、それまでにないくらいセクシーで色気のある表現をされた」

 「俵万智さんが与謝野晶子さんの『みだれ髪』を現代語訳することは、僕が竹久夢二の絵をカバーするみたいな話なわけで。そのバチバチの殴り合いというか、切磋琢磨に関わらせてもらうなら、僕も大正ロマン風の半端な表現をしたら、もう2人に往復ビンタされるなと思って、めちゃめちゃ緊張感ありました」

 「みだれ髪」とは、夜の営みの後で乱れた髪のこと。風になびいた髪ではない。これまで女性を性的に描くことを避けてきた中村さんだが、「書籍の表紙として、裸体は描けないけれど下着姿ぐらいは描かないと、真摯に向き合ったとはいえない」と腹をくくった。ブラジャーの描き方も研究したという。

 「ちゃんと今の人を描いて、最初の『みだれ髪』の(19世紀後半から20世紀前半に活躍したアール・ヌーボーの巨匠)アルフォンス・ミュシャっぽい装丁もふまえて、すべてを総括するものを描こうと。名久井直子さんのデザインで、紙選びや栞紐、本文まで、総合的に宝石箱のような、丁寧に編み上げられた編み物のような本ができ上がって。そこに僕の絵を入れてもらったのは本当にうれしかったですね」

「天国で会いたい人がいっぱい」

 自らの画集『Blue』と『NOW』(いずれも飛鳥新社)は累計13万部を記録。展覧会には、CDジャケットや単行本の装画のほか、食品の「浅田飴」や「チョコパイ」のパッケージなども多数並び、私たちの日常に中村さんのイラストレーションが溶け込んでいることが伝わってくる。

 時代を見つめ、期待を軽やかに超えるイラストレーションを生み出していく。その姿勢を、中村さんは自ら「基本はマゾヒストだと思います」と笑う。

 「自分をいじめるのが好きというか、トイレ我慢するのも好きですしね(笑)。追い詰められている僕はすごく楽しそうなんですよ。騒いじゃいけない怖い先生の授業であればあるほど、なんかしたくなる。そういうところがずっと僕の中にあるのだと思いますね」

 インタビューの途中、縁があった偉人と天国で会話するシーンを楽しそうに語った。

 「天国で、与謝野晶子さんや(装画を)手がけた江戸川乱歩さんや谷崎潤一郎さんに、『僕の絵、どうでした?』と聞いて、『お前はよくやったよ』と褒めてもらえたら、『じゃあ、ここに来てよかったです』と言えるなって。会いたい人がいっぱいいますね」

 中村さんは、時代を超える名作を生み出した作家たちと、イラストレーションを通じて対話を重ねる。唯一無二の創作と挑戦は続く。いつか偉人たちからのねぎらいを夢に見ながら。