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ベストセラーを生み出す7人の装丁家 ずっと手元に置きたい本はこう作られた【ブックデザインの冒険】

「原稿で、今日の行動が変わる」装丁家・川名潤さん

川名潤さん=西田香織撮影

  漫画家・今日マチ子さんの鮮烈なデビュー作『センネン画報』、250万部を突破した漫画版『君たちはどう生きるか』、最近大きな話題を呼んだ文芸誌「群像」のリニューアル、そして本棚にたたずむ小説や人文書の数々――。大学卒業後、月刊誌「サイゾー」の創刊デザイナーになった川名さんの軌跡を辿りながら、雑誌で培った一冊ごとの「文化祭感」を楽しむ、ブックデザインの仕事について聞きました。

 装丁で一番楽しいときを尋ねると、「ラフがイラストレーターによって本物になる瞬間と、OKストアに電話しているとき」という答えが返ってきました。一体どういうことでしょうか。単行本の装丁の仕事を一から教えてくれた川名さんのレクチャーも必読です。

装丁家・川名潤さん「原稿で、今日の行動が変わる」 文芸誌「群像」の大胆リニューアルから漫画・小説まで

出版社インハウスデザイナーの仕事、装丁家・大久保明子さん

大久保明子さん=西田香織撮影

 「紙の本の作りが、好きなんです」。文藝春秋デザイン部の装丁家・大久保明子さんは語ります。「カバーがあって、表紙があって、見返しがあって、扉があって、みたいな紙の本の作りが好きなんです。紙の質感や匂いもありますけど。最後にまた見返しがあって、前後で違う表紙を見て、裏表紙で『うん』という感覚。そういう流れが好きなんです」

 芥川賞や直木賞、本屋大賞などの文学賞受賞作から、100万部や250万部を超える大ベストセラーまで、多くの人の記憶に残る文芸書を手がけてきた大久保さん。著者が書き上げたテキストを、イラストレーターや写真家の作品を生かしながら、本としてベストの形に仕上げる。四半世紀に渡り1000冊を超える本を生み出してきた大久保さんが、これまでの歩みと心に残る装丁について語ってくれました。

装丁家・大久保明子さん 芥川・直木賞・村上春樹・『火花』…一冊一冊を記憶に残すベストセラーのデザイン

その本から“湯気”は出ているか? 装丁家・矢萩多聞さん

矢萩多聞さん=木村有希撮影

 10代をインドで暮らした矢萩多聞さんが、初めて装丁を手がけた本は自著『インド・まるごと多聞典』。21歳のときでした。

 以来、ノンフィクションや小説、学術書、教育絵本など、約20年間で600点を超える本の装丁を手がけてきました。ときには取材にも立ち会い、現地を訪ね、人の話を聞き、作家の相談に乗り、製紙工場を訪ね、インドの出版社にも足を運びます。

 「毎回、小手先で出来る仕事がないんですよね。僕にとっては年間何十冊の中の1冊でも、その人にとっては最初で最後の1冊かもしれない。全部物語があるから」。そう語る矢萩さんに、本づくりにまるごと関わり、作家や編集者と二人三脚で手触りを感じる一冊を生みだす、熱量あふれる装丁術について聞きました。

装丁家・矢萩多聞さん 「いい本には湯気が出ている」取材にも足を運び、まるごと1冊をつくる熱量

編集者に伴走するデザイナーの思い 装丁事務所「アルビレオ」

「アルビレオ」の草苅睦子さん(左下)、西村真紀子さん(右下)と、装丁を手がけた書籍の数々

 書籍と雑誌、絵本と小説。ジャンルや読者層を、垣根を軽やかに超えて、“その本の読者”に届ける一冊を手がけていくのが「アルビレオ」の装丁。

 西村真紀子さんと草苅睦子さんは、「本の街」として知られる東京・神保町にある事務所で、文芸賞の受賞作から大ヒット絵本シリーズ、文芸誌のリニューアル、時代小説やミステリーなどの文庫、教科書にいたるまで、幅広くブックデザインを手がけています。

 「まず読者に届けたいと思っていますが、著者の方に喜んでもらえるのはやっぱりうれしい。賞をいただくことも励みになりますが、重版がかかったと聞くとほっとします」。編集者に伴走し、「重版はうれしい」と語るふたりに装丁について聞きました。

装丁事務所「アルビレオ」、支え合い13年。編集者に伴走しながら“混沌とした思い“を本にする

「アナログとデジタルの垣根がなくなっている」アートディレクター細山田光宣さん

細山田光宣さん=西田香織撮影

 食やライフスタイルをはじめ様々なジャンルの雑誌や書籍を手がける細山田デザイン事務所のアートディレクター・細山田光宣さん。雑誌全盛期の「BRUTUS」からキャリアをスタートし、「relax」の創刊、「POPEYE」のリニューアル、イラストレーターの大橋歩さんが責任編集した雑誌「Arne」など、メジャーからインディペンデントまで自在にデザインを手がけます。

  「20年以上前は、雑誌をする人と書籍をする人は基本的に分かれていたと思う。だけど、書籍が雑誌化したんですよね。全然悪いことだと思いませんけど。装丁の世界観、仕事、デザイン自体が変わっていったと思います」

  これからは「誰でもノックできる『街のデザイン屋』であるべきだ」と語る細山田さんに、東京・富ヶ谷の事務所でエディトリアル・デザインの未来像を聞きました。

アートディレクター細山田光宣さん「アナログとデジタルの垣根がなくなっている」 雑誌と本のデザインのこれから

10年読み継がれるロングセラーが生まれる場所:装丁家・石間淳さん

 装丁家・石間淳(いしま・きよし)さんは、200万部超のベストセラー『置かれた場所で咲きなさい』のほか、多くのヒット作、ロングセラーを生み出してきました。10年の時を経ても、ずっと読み継がれる本を生み出すことこそ装丁家の醍醐味ではないでしょうか。

 「書店で並んでるときのアピールする部分も大事ですが、家に帰ってきて自分の書棚に収める、もしくは家のリビングに本を置くときに、帯のない状態で寄り添うかたちになるのもいいですよね。書店では目立ちたい。でも家では静かな、自分の暮らしにそっと馴染む本であってほしい」

 じつは、石間さんが初めて単行本の装丁を手がけたのは38歳のとき。遅咲きのキャリアはどうやって花開いたのでしょうか。これまでの歩みと、長く読み継がれるロングセラーのデザインについて聞きました。

装丁家・石間淳さんが語る、10年読み継がれるデザイン 『置かれた場所で咲きなさい』から大ヒットビジネス書まで