1. HOME
  2. コラム
  3. ブックデザインの冒険
  4. 書体設計・イラスト・造本・印刷…本作りを支える、著名クリエイター6人の情熱と思考【ブックデザインの冒険】

書体設計・イラスト・造本・印刷…本作りを支える、著名クリエイター6人の情熱と思考【ブックデザインの冒険】

水のような、空気のような書体とは? 書体設計士・鳥海修さんの仕事

鳥海修さん=西田香織撮影

 iPhoneなどのスマホや、ワード文書、ドキュメントを通じて、私たちが日々読んでいる文字。その書体(フォント)には一つひとつ名前がついているのを知っていますか? 字游工房の鳥海修さんは、書体設計士として「ヒラギノ」や「游明朝」など、多くの人が使う書体の開発に関わってきました。

 書体はブックデザインに大きな影響を与える要素。読者に寄り添う「水のような、空気のような」書体は、どう生まれているのでしょうか。

 「いかに読みやすい文字を作るかは、いかに歴史にのっとって作るか。いまUD(ユニバーサルデザイン)フォントが注目されているけど、少しずつ現代が入ってくるんだよね。私たちは、その最先端にいるわけです。不易流行ですよ」。そう語る鳥海さんが、40年に渡り向き合ってきた書体開発とその歩みについて明かしてくれました。

書体設計士・鳥海修さん 谷川俊太郎の詩を組む書体から、Mac搭載フォントまで。歴史と現代をつなぐ「文字作り」

装画は「本の要約です」“ベストセラー請負人”のイラストレーター中村佑介さん

中村佑介さん(左)=西田香織撮影

 イラストレーター・中村佑介さんの装画は、多くのベストセラーの表紙を飾ってきました。森見登美彦さんの小説『夜は短し歩けよ乙女』や420万部超のベストセラーとなった東川篤哉さんの『謎解きはディナーのあとで』、そして与謝野晶子の歌集を歌人・俵万智さんを現代にアレンジしてよみがえらせた『俵万智訳 みだれ髪』……。鮮やかな色を大胆に配置し、独自の構図で描く女性像が特徴です。

 「イラストレーションで『主人公の顔はこれなんです』って具体性を示してあげて、漫画世代でも手に取りやすい、それでいてキャラクター性に寄りすぎず、ネタバレにもなってなくて『読みたいかも』と思えるバランスがあるんじゃないかなと。本の表紙はそれをずっと試している感じです」

 人気ロックバンドのCDジャケットから食品のパッケージ、教科書に至るまで、縦横無尽に活躍する中村さんに、イラストレーションや装画の極意について聞きました。

イラストレーター中村佑介さん「男性作家が描く、女性に選ばれる女性画」 ベストセラー請負人が細部に込める魂

「言葉に表せないモヤモヤを具現化する」作家との疑似恋愛:イラストレーター三好愛さん

三好愛さん=西田香織撮影

 中高生の頃から「本の絵を描く人になりたかった」。イラストレーターの三好愛さんが長年あたためてきた夢が叶ったのは、30歳を過ぎてから。2018年に美学者・伊藤亜紗さんの『どもる体』を手がけてから、瞬く間に川上弘美さんら小説の装画や、宮部みゆきさんの新聞連載小説の挿絵など、第一線で活躍する“装画家”になりました。

 「制作期間は、その人が書いた文章や作った音楽のことをずっと考えていて、相手側がこっちをどう思っているか、自分が相手についてどう思っているかを一生懸命考えて、駆け引きしながら作っていくから、距離感の詰め方とかが恋愛っぽいんですよね」

 言葉にならないモヤモヤを見つめ、この世にない生きものを描く作風で人の心をとらえる三好さんに、創作の現場や自著のエッセイについて聞きました。

イラストレーター三好愛さん「言葉に表せないモヤモヤを具現化する」作家との“疑似恋愛”

個人のクリエイターやデザイナーに愛される印刷所:藤原印刷

藤原隆充さん(左上)と藤原章次さん(右上)=西田香織撮影

 長野にある家業の印刷会社を継いで、新しい風を吹かせる兄弟。藤原印刷の藤原隆充さんと章次さんは、企画の段階からデザイナーやクリエイターから、クチコミで相談が寄せられる印刷会社の2人として注目されています。

 いまの時代に紙に印刷する価値について、兄の隆充さんは「本は“小さい家”」「自分の哲学や思想を詰め込むことができます」と表現しました。弟の章次さんは、「1万人、5万人じゃなくて、1000冊なら1000人、500部なら500人でいい。単位が小さくても、その幸せを、色んな方が色んな形で表現していく。それが今の紙の価値になっている」と語ります。

 個人のクリエイターやデザイナーの「こうしたい」にとことん寄り添い、複雑な造本をかたちにする印刷会社の挑戦について聞きました。

藤原印刷 個人やデザイナーに愛される兄弟の決意「紙の本でも、一人ひとりの思いと一冊に寄り添う」

第一線の写真家たちがデザイナーに指名する理由:造本家・町口覚さん

町口覚さんと、手がけた写真集の数々

 写真集の造本設計で知られるグラフィックデザイナーの町口覚さん。日本を代表する写真家のひとり、森山大道さんのほか、荒木経惟さん、石内都さん、蜷川実花さん、奥山由之さんら、国内外で活躍する写真家たちと唯一無二の写真集を世に送り出してきました。町口さんのレーベルの作品は、7割ほどが海外で販売されています。

 「造本家なのに、関税とか輸送とかすげえ詳しくなっちゃった(笑)。でも自分が作った写真集を、世界に伝えるためにやってることだからね」「今回の新型コロナウイルス騒動で世界の写真は確実に飛躍する。やっぱ、その中心に立っていたいよね。そこに行くためには、写真集を作り続けないといけない」

 世界にファンを持つ町口さんに、これまでの歩みと造本設計について聞きました。

造本家・町口覚さんの写真集が世界に愛される理由 森山大道、蜷川実花からパリ・フォト出展まで