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岸田奈美さん「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」インタビュー 人生みんなでおすそ分け

岸田奈美さん

 書名が長いのには、わけがある。自称「100文字で済むことを2000文字で伝える作家」が「家族愛と呼ぶ愛は幻想。家族を愛することは義務ではないはず」と、やんわり異議を唱えたいのでこうなった。

 反抗期のころ、「パパなんか死んでしまえ」と言い放った夜、本当は好きな父が倒れ、2週間後に亡くなった。その後、母は大動脈解離の後遺症で車いす生活に。弟はダウン症。自ら「情報過多の人生」と呼ぶ体験をつづった、このエッセー集で作家デビューした。重いはずの逸話が、軽やかに、大げさに展開する。

 大学在学中に起業し、9年働いた会社では「タイムカードも押し忘れる、めっちゃダメ社員」だった。体調を崩して休職中、一緒に旅行した弟の、優しくたくましい姿を、みんなに自慢したいとブログで発信したのが物書きへの目覚めだった。

 流行のブラジャーを試着し、胸にかき集められた肉に「ワレ、乳やったんかオイ!」と関西弁で叫ぶ随筆がネットで拡散し、本の出版が決まって会社に別れを告げた。

 行動の原動力は「愛」。家族や友人から受けた愛を井戸端会議風に、たっぷり、しつこく披露する。読者から届く愛も、おすそ分けして、みんなが幸せになれたら、と。

 おすそ分けの手口は、著述にとどまらない。コロナ対策の一時金10万円を賞金に「面白い文章大会」を主催し、全4300編を一人で審査した。11月22日からはSNSで読書感想文大会も。「5冊から選んで初日に読み、翌日投稿します。途中で進み具合も報告しあう。著者も読者もうれしい祭りです」と言う。

 SNSの有料購読マガジンが主な収入源だ。「月千円の会費は安くありません。一人一人の顔が見えるファンクラブと受け止めています。私の人生を一緒に編集してくれる人たちです」(文・写真 市川速水)=朝日新聞2020年11月21日掲載