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辻堂ゆめさんがアメリカで見たドラマ「パパとムスメの7日間」 英語字幕を自力でつけて親友に見せたところ…

 2007年夏。テレビドラマ「パパとムスメの7日間」が、日本で放送されたらしい。なぜ「らしい」なのかというと、リアルタイムで見ることができなかったからだ。当時14歳だった私は、父の仕事の都合でアメリカのニュージャージー州に住んでいた。

 日本人が比較的多い州だったため、ところどころに日本人向けスーパーがあった。中には、食品だけでなく、日本の映画やテレビドラマのDVDのレンタルを取り扱っているお店もあった。「パパとムスメの7日間」も、確か父がそこで借りてきたのだったか。

 日本にいた頃からテレビをほとんど見ていなかった上、中学からはアメリカに引っ越してますます日本の芸能界事情に疎くなっていたため、何の前情報もないまま見始めた。主演の新垣結衣のことは「ああ! 名前はよく聞くけど、この可愛い人が新垣結衣だったのか」。その父親役を演じる舘ひろしに至っては、コメディ俳優なのかと思って見ていたら、「本来こんな役をやる俳優じゃないのよ!」と母に解説される始末。だからこそ、純粋にストーリーを楽しめたともいえる。

 ドラマは全7話構成。ある事故をきっかけに人格が入れ替わってしまった会社員の父と高校生の娘が、互いに協力しながら会社や高校で発生するイベントやトラブルを乗り越えていくというハートフルコメディだ。「入れ替わりもの」は定番ではあるが、やはり面白い。主演の2人、特に舘ひろしの奮闘や空回りにゲラゲラ笑えるし、思春期真っ盛りの娘が徐々に父親に対する理解を深めていく展開も心温まった。

 見終わると、さっそく誰かに感想を話したくなった。だが現地校に通っていたため、普段ふれあう友達はアメリカ人で、このドラマの存在すら知らない。そこで私は謎のやる気を発揮した。映像にキャプションをつけられる無料ソフトを見つけてきて、なんと自力で英語字幕をつけることにしたのだ。

 どのくらいかかったのかはよく覚えていないが、すべての台詞を日本語から英語に訳し、パソコンに打ち込み、表示するタイミングを調整しなければならないのだから、作業時間は相当なものだったろう。ようやく完成した「『パパとムスメの7日間』英語字幕版(※個人鑑賞用)」を、私は自分の誕生日にお泊まりパーティーを企画して、2人の親友に見せた。

 7時間分のドラマの台詞を全訳して、観客がたった2人という、大人になった今では考えられない非効率ぶり。しかし、「すごく面白かった!」という親友2人の感想が、苦労を喜びへと変えてくれた。自分が訳さなければ、日本語を知らない彼女たちはこの楽しい作品に出会うことはなかったのだ。これを機に翻訳家の夢に目覚め──とはならず、今小説家として活動しているのがまた不思議なところだが、あの夜のことは今でも忘れられない。

 アメリカ人の親友の感想で一番意外だったのは、眼鏡をかけたおじさんたちが集まって会議をしているシーンで、「全員、北朝鮮の総書記(※当時は金正日)にしか見えない」と言われたことだ。日本の典型的なサラリーマンのおじさん、だったのだが……。次に訳すときは登場人物にも字幕をつけないとな、と反省したものの、その機会はついぞ訪れていない。