「ドキュメント 日銀漂流」書評 「独立への旅」乗り出したはずが
評者: 石川尚文
/ 朝⽇新聞掲載:2021年01月16日
ドキュメント日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀
著者:西野智彦
出版社:岩波書店
ジャンル:金融・通貨
ISBN: 9784000614382
発売⽇: 2020/11/30
サイズ: 20cm/341,4p
ドキュメント 日銀漂流 試練と苦悩の四半世紀 [著]西野智彦
過去四半世紀の日本銀行は、金融危機や物価下落と苦闘しつつ、政府との距離をめぐる議論に翻弄(ほんろう)されてきた。本書は関係者らの証言や記録を積み重ね、その歩みを描き出す。5人の総裁のそれぞれに個性的な姿が鮮やかに示されるとともに、「独立への旅」に乗り出したはずの日銀が曲折の末「政府との連携」の強化に至る「漂流」が浮き彫りになっている。
『平成金融史』など定評のある著者の前著と重なる部分もあるが、焦点が日銀に絞り込まれ、解像度も上がっている。90年代の三洋証券の破綻4日前に日銀内部で幹部が述べたという指示の具体的な内容や、直近では16年のマイナス金利導入直前に内部で繰り広げられた議論の詳細が、興味深かった。課長級の行動まで明記された重みだろう。
「漂流」の評価や、日銀の役割については議論が絶えない。だが、どの立場にしろ踏まえるべき事実が、本書にはふんだんに盛り込まれている。