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岡本啓さん「ざわめきのなかわらいころげよ」インタビュー 風景は語りかけてくれる

詩人の岡本啓さん=小山幸佑撮影

 詩を疑ってきた。「世界を美しくしすぎるし、比喩で真実をごまかすから」。昨年刊行の本作は手応えを得られたという。「詩によって風景は豊かになり、生きていく上でのふくらみを得られる」

 自転車で街を疾走したり、旅先で見知らぬ街を歩いたりして、言葉をノートに書きつけてきた。

 「通常、自然や風景は沈黙しています。でも、自分が話しかけると、向こうも語りかけてくれる。万葉の歌人が自然と対話したように」

 詩を書き始めたのは27歳と遅い。宇宙鉱物学を研究する妻の赴任先だった米国ワシントンから、詩誌「現代詩手帖(てちょう)」に投稿し、2014年に現代詩手帖賞を受賞した。第1詩集『グラフィティ』は中原中也賞とH氏賞に、17年の第2詩集『絶景ノート』は萩原朔太郎賞に選ばれた。

 第3詩集となる本作の散文詩「風景に呼びかける」。民家の軒先で熟れ方の違う2種類の干し柿を見たとき、こんな1行が現れた。

 〈時間が吊(つ)り下がっていた〉

 別の散文詩「空白地帯」。空き地の水たまりに映る空を見て「夢」という言葉を連想し、こうつづった。

 〈かつての住民が、この場所で毎晩見た夢だけは、まだこの空き地にとどまっている〉

 詩人とは「普通の慣習や固定概念からすぐに離れることができる人」と説明する。この人の中では言葉が軽やかに生まれ、イメージも瞬時に連れてくるらしい。

 「ちょっと変人で申し訳ないんですけど」。インタビューの途中、こんな前置きをし、カフェにある机と椅子を指さして言った。「『机と椅子が浮いている』という言葉を発することで、本当に浮いていると思えるんです。それが楽しい」

 朝食を作り、妻と3歳の息子を送り出す。そして街を歩き詩を紡ぐ。(文・赤田康和 写真・小山幸佑)=朝日新聞2021年1月16日掲載