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川島敏生さんの絵本「1ねん1くみの1にち」 小学校って楽しいところ!を写真で表現

文:日下淳子、写真:加藤史人

小学1年生クラスの1日を撮影

――小学校ってどんなところ? 未就学の子どもにとって学校は未知なる世界。そんな小学1年生クラスの1日を撮影して1冊の本にしたのが、写真家の川島敏生さんの『1ねん1くみの1にち』(アリス館)だ。朝の会、算数の時間、体育の時間、給食……。生き生きとした子どもたちの様子をリアルに描いた写真絵本には、がんばる1年生だけでなく、いたずらしたり、友達とはしゃいだり、失敗して落ち込んだりする子どもの姿もある。

「あさの会」の様子。『1ねん1くみの1にち』(アリス館)より

 1年生が登校してから帰るまでを4、5日間ずっと密着で撮りました。その中からおもしろい1日をピックアップして、時間軸に沿いながら選んでいます。撮影したのは素敵な学級で、掃除の時間が運動会になるような子どもたちでした。表紙の教室に、机に残された筆箱がのっていますが、これは本当にたまたま子どもが忘れたもの。予測不能の出会いが、導入になりました。

 この絵本は、いろいろな楽しみ方があります。たとえば、すごく虫の好きな子が一人出てくるんですよ。この子の1日をずっと追っていくと、子どもの物語が見えてきます。このときの担任はすごくいい先生だったので、教室に虫かごを持ちこませてくれました。彼の机の横には、虫かごが一日中置いてあるんです。ときどきのぞいたり、他の子がのぞきにきたりして。そういうのが楽しいですよね。

 体育の運動会の練習は、1年生の「よーいどん」だけで絵本ができるぐらいおもしろいです。走る前のかっこう、走り方、ゴールの仕方、みんなとっても個性が出ます。1年生は走ることにもまだ慣れていなくて独創的。いままで練習することなんてなかったんですから、当たり前です。体育は、授業前の着替えの時間も載っています。脱げなくてバタバタしていたり、ある女の子は、隣の席の男の子の脱ぎ散らかした服をたたんであげたりしています。誰もいなくなった教室の洋服の残り方なんてのも、端から見ていくだけでおもしろいでしょう?

ランドセルの中身やクラスメートの筆箱も。『1ねん1くみの1にち』(アリス館)より

 撮影をしたのは10年ほど前です。この時はもっとおおらかで、もちろん教師や親には子ども全員の撮影許可をとりましたが、撮影に関して学校から文句を言われることはありませんでした。いまは多くの学校で撮影許可が下りず、実現が難しい絵本だったと思います。

楽しく過ごせるならば、それで十分

――この絵本に出てくる子どもたちは、全員が全員、言われたことがちゃんとできているわけではない。授業中ぼんやりしたり、後ろの子に話しかけたり、運動場に寝転んでしまったり。「と、とどかない」「ねむい……」「土の上はきもちいい」など、子どもらしいセリフも書かれ、思わず笑ってしまう。自由な子どもたちの姿から「学校は楽しいところ」という雰囲気がずっと流れている。

 ぼくがこの本を作った狙いは、本当にそれだけなんです。「学校は楽しい」。小学校にあがったばかりの1年生が、全員きちんとしていることはあり得ないんだけれど、いまの学校は子どものふざけた様子をのせたら叱られますね。ぼくが思うのは、学校というのは、子どもが一番リラックスできて、楽しく過ごせるならば、それで十分だと思うんです。幼稚園や保育園に行っていた子が、はじめて学校に来るんですよ。勉強は、基本的なベースを楽しくやっていただければ、それで十分ではないですか?

――川島さんは、カメラマンという仕事をしながら、もともと教育に関心を持っていた。『学校に行かない進学ガイド』(別冊宝島)を手掛けたり、登校拒否の子どもたちのための情報誌「子どもとゆく」を仲間と作っていた。その情報誌に注目していた福音館書店の関口展さんに、学校の写真絵本を作らないかと声をかけられたのが、『1ねん1くみの1にち』の始まりだった。

 この本は、福音館書店の「おおきなポケット」という月刊紙の読み物に掲載されたものがもとになっています。アリス館から単行本化するにあたって、新しく取材をし、ランドセルの中身を見せたり、1カ月の給食をのせたり、最後に夜の学校の様子をのせたりしています。

 写真で絵本を作るとき大事なことは、まず、シンプルであることです。写真は情報量が多すぎて、子どもが読み取り切れないので、わかりやすさが必要です。それから、コンセプトがしっかりしていないといけない。たとえば『1ねん1くみのいちにち』では、1日の流れを、すべて俯瞰で(上から)撮っています。そうすることで、全体の流れを把握しながら、子どもの細かい部分を追っていく、ということができるんです。

『1ねん1くみの1にち』(アリス館)より

 それに、写真はデフォルメした絵と違って、実際に起こっている事という力がありますし、時間の経過も一目瞭然です。そういうことを意識して作らないといけないのが、難しいですね。でも佐藤雅彦さんの『このあいだに なにがあった?』や、柿木原政広さんの『ぽんちんぱん』など、すごくコンセプトがはっきりしていていい写真絵本もたくさんあります。

 昔からぼくは企画を考えるのが好きで、いろんなものを作ってきました。この歳になっても、死ぬまでにこういう本を作っておきたいという思いが出てくるんです。石が生きているように大きくなっていく話にしてみようとか、写真で表現するとおもしろいものって、たくさんあるんですよ。もう絵本の企画メモが100以上たまっています。死ぬまでにあと10冊ぐらいしか作れないから、いまからこれを厳選していかないとと思っていますね。