この本は「人間理解」に役立つ本だ。私が読んで感じた印象はこの一言にまとまる。
「クリエイター」と呼ばれる人々には、どこか特別で不可侵な匂いが漂うものだ。自分とは違う人種で、日常で関わることはない“向こう側の存在”だと思わせる。私もそう感じていた一人だ。しかしこれからは、クリエイターと出会い、交わる機会は多くの人にとって日常化する。ジョブ型雇用や副業解禁の促進によって、個人がその人特有の能力を発揮しながら組織に貢献する働き方は広がるはずだからだ。モノやサービスをつくる過程にクリエイターと連携する場面は増えていくだろう。
34歳までセールスマンでクリエイティブの「初学者」だったという著者が、クリエイターのものの見方や意思決定における優先順位の考え方を解説する本書は、“向こう側”の言語や思考を理解するための手引書になっている。「NTTドコモ:森の木琴」「GODIVA:日本は、義理チョコをやめよう。」など自身が手がけた広告の制作エピソードも楽しい。いわく、創造は「好き」に基づく模倣であり、「借りて」「盗んで」「返す」3ステップで完成する。向こう側は遠いようで実は地続きなのだ。=朝日新聞2021年2月6日掲載