1. HOME
  2. コラム
  3. フルポン村上の俳句修行
  4. フルポン村上の俳句修行 光あふれるリモート「吟行」句会

フルポン村上の俳句修行 光あふれるリモート「吟行」句会

文:加藤千絵

>連載が本に! 出版を記念して「俳句フェス」を開催します。オンライン吟行句会の参加はこちら

 今回参加する「卯浪俳句会」リモート句会を主宰するのは、抜井諒一さん。「俳句界の芥川賞」ともいわれる角川俳句賞を、2019年に受賞している実力者です。ちなみに同年は、この連載に登場した西村麒麟さんが同時受賞しています。

 抜井さんが俳句を始めたのは2008年。当時群馬に住んでいた抜井さんはもともと、地元出身の詩人・萩原朔太郎や山村暮鳥の影響を受けて、短詩に興味があったと言います。それでも「自分で作るイメージはなかった」のですが、ある日、やはり地元の俳人・山本素竹さんに出会い、句会に誘われます。

抜井諒一さん

 「俳句ってお題があって季語を入れて作る、ってイメージだったんですが、素竹さんはその場で実際に見たもの、感じたもので俳句を作って句会をするというやり方でした。そこで“吟行”を知ったんですけど、その日は秋の夜、冬に近い頃で、(季語の)こたつがあって落花生があって、秋の夜とか虫の声でも句を作りました。身近にあるもので詩ができる、そういうところが非常にいいなと思ったんです」

 山本さんの元で、自分が感じたことをそのまま句にする、自分の発見を大切にすることを学んだという抜井さんが目指す俳句とは? 「原始的な句ですね。非常に抽象的なんですけども・・・・・・。自然の中にあって第六感で感じる、人間が持っている感覚の新しさ。例えば縄文土器を見て、あんまり分からないんですけどとってもすごいパワーを感じるようなもの。それも自然の中から着想を得ていると思うので、そういう新しい感覚の発見というところで、いい句ができればと思っています」

立春からの数日で吟行句を作る

 「ずっと70~80歳の人の中に一人だけぽつんと交ざって俳句をやる状況だった」という抜井さんですが、そこで感じたのは「オフラインの発見」だと言います。「高齢の方はあまりインターネットになじみがないんですけど、そこにこそ、とってもいい俳句があると思ったんです。かっこよく言えば、世界とつながっていない部分にまだまだすごいもの、発見がある」。それ以来、「句会はアナログで」という姿勢を貫いてきましたが、コロナ禍でリアルでの開催がむずかしくなり、有志を集めてインターネットで句会をしています。

 今回、村上さんが参加した「卯浪俳句会」リモート句会もその一つ。なるべく吟行して作ることを大事にしている抜井さんらしく、宿題の季語などはありません。「当季雑詠嘱目3句。つまり2月3日立春の日から数日間、目に触れ心に残ったものなどを句にしていただき、3句投句いただければと思います」というオーダーでした。

最高点は紙飛行機の落下を詠んだ句

 2月13日午後8時、オンライン上に集まったのは抜井さん、村上さんを含めて7人でした。事前に特選1句、並選2句(それぞれ2点と1点に換算)を選び、この日の最高点の4点(特選2人)を獲得したのは、久野由加里さんの「春浅し紙飛行機の落下点」でした。久野さんは村上さんが出演する俳句のバラエティー番組「プレバト!!」を見て、1年前から抜井さんの元で俳句を習い始めたばかりです。

武井禎子:紙飛行機だけだといろんな季節が想像できるんですけれども、下五に「落下点」を持ってきたところで、これは「春浅し」がカチッとはまるなと思って。やわらかな土とか、小さな芽が少し出ているところとか、落ちたところの様子が想像できて、すごく好きな句でした。

抜井:落下点を描くことによって、そこまでどうやって紙飛行機が滑空していったのかとか、落下点を見つめているときの作者の心持ちですとか、そういった印象が「春浅し」にぴったりくるなと思いました。「春浅し」ですから、2月の風の冷たさ、落っこちてしまった紙飛行機のはかなさという心の寒さもあって、非常に繊細な感覚をとらえたいい句だなと思いました。

久野(作者):そこまで考えていなかったので、読み手がすばらしいんだなと思ってびっくりしました(笑)。子どもが紙飛行機を飛ばしていて、たぶん作り方が上手じゃないと思うんですけど、毎回急降下していて。それをずっと公園で見ていたら寒くなってきて、飛行機もかわいそうだし、落ちるところに印象があったので詠みました。

春の兆しが感じられる句が人気に

 まだまだ春は浅いですが、「日差し」や「光」の中に暖かい季節への兆しが感じられる日もある――。この日は、そんな明るい句に人気が集まりました。

立春の光吹き出す蛇口かな(抜井諒一)
Jonathan'sの'sに二月の光かな(村上健志)
白梅の光の中に消えにけり(吉川あかし)
おほはれてゐるものの芽のみづみづし(武井禎子)
おにぎりのラップに光る春日かな(真篠みどり)
薄氷のやぶれかけたる汀かな(宮内千早)

 抜井さんの「立春の光吹き出す蛇口かな」と吉川さんの「白梅の光の中に消えにけり」は3点句に。それぞれ「蛇口から出ている水がきらめいているのを『光吹き出す』って表現された感覚がすばらしい」(真篠)、「白い梅の中に光が吸い込まれていくように読めてすてき」(久野)という特選句評でした。村上さんの「Jonathan'sの'sに二月の光かな」も3点を集める人気句でした。

吉川:句自体は「ジョナサンって飲食店の看板の一部に光が差している」ということですが、私としては今のコロナの状況を考えて、少し感染が下火になってきて飲食店にも少し光が差してきた、というような感じを受けました。おしゃれな句なんですけど、それに加えて深いメッセージのようなものが感じられて特選にいただきました。

抜井:俳句に横文字を使うことに全然ビビッていないと言いますか、句の形としてはちゃんとした写生句だなと思いました。日差しなのか月の光なのかは分かりませんが、Jonathan'sの「's」の部分が光っていた。見た目の写生と、あかしさんの句評にもあったコロナによる心情的なものの写生ということで、非常に深い見方、詩になっているなと思っておりました。「Denny'sの'sに」でもいいんですけれども、おそらく作者はジョナサンに触れて詩を思いついたのかな、と思いました。

村上:僕らの会社の近くにジョナサンがあるんですけれども、その看板を実際に見て思いました。あと今「花束みたいな恋をした」って映画があるんですけれども、脚本の坂元裕二さんの作品が僕は好きで、その中にファミレスがすごい出てくるんですよ。それでファミレスが好き、とかも考えたり。ジョナサンのエスって、日本語で発音されないですよね。デニーズだと「ズ」が入って、ジョナサンのエスは音としては全く関係ないものなんですけど、そこに差している光が、2月と相性がいいんじゃないかなという思いで作りましたね。

 真篠みどりさんの「おにぎりのラップに光る春日かな」は、「この句を見て、初めておにぎりのラップに春の日差しってすごく合うなって気づかされた」(宮内)という句評に共感が集まりました。村上さんも「僕は何が光る、何に影が差すっていうのはすごく好きで、その中でもいいなーと思った」としつつ、「ラップもいいけど、おにぎり自体が光ってもいいなと思った」と鋭い指摘を残しました。

村上さんの出句3句

Jonathan'sの'sに二月の光かな(特選1、並選1、気になる句2)
自転車のスマホホルダー春の雲(気になる句2)
韓国海苔のかす指につけ春炬燵(気になる句2)

句会を終えて、村上さんのコメント

 毎月句会にはいろいろ参加させていただいていて、それぞれ色が違うんですけど、リモートで吟行だったのは今回が初めてでした。いつも吟行するときって自然公園とかに行くんですけど、今回は自分の生活スペースの中を俳句にしようって試みで。それぞれ違う場所で、立春くらいからの時期で感じたこと、考えたことを詠むと、みんな全然違うものが出てくるし、何を気にしてるのかが見えておもしろいなと思いました。

 「自転車のスマホホルダー春の雲」は、駅から自分の家までの帰り道で、なんか見落としてたものないかなと見ていたら、最近よく自転車にスマホホルダーが付いてるな、という風に思って。宅配とかをやってる人が多い関係もあると思うんですけど、「ああそうか、自転車にもスマホホルダーがこんなにも付いてるんだ」ってところでどうにかしたかったんです。

 「韓国海苔のかす指につけ春炬燵」は、ふつうに韓国のりを食べてたらバラバラと崩れて、かすがいっぱい机の上に散らばって。それを手で払って捨てたり、手に付けちゃ舐めてっていうのが「春炬燵」の堕落さと合っていいなと思って作ったんですが、なんかしっくりこなかったですね・・・・・・。みなさんは、自然のものを正面から句にしようとしているのがすごく伝わりました。僕もそれがやりたいんですけどなかなかできなくて、勉強させていただきました!

抜井諒一さんからのコメント

 今回は吟行句らしい、みずみずしい俳句をたくさん見させていただいたという充実感があります。吟行は詩の原石みたいなものが得られる場所だなと感じています。原石のまま句会に出すのもいいですけれども、原石を磨いて宝石のように光らせて句会に出すと、「玉石混淆」なんていう言葉がありますけれども、とっても光って見えるような句になると感じています。そういった意味で、村上さんのジョナサンの句は、吟行で原石を拾ってきて、それを磨いて句会に出していただいたなと思っております。これからも原石を磨いて、宝石のような句を俳句の世界にちりばめていってもらえればうれしいなと思いました。これからも応援しています。

 【俳句修行は、本になってもまだまだ続きます!】