「精神看護」は、精神科医療従事者のための総合情報誌。
ひと昔前まで精神科医療というと患者に対し高圧的で非人道的なものという印象を持っていたが、そんな負のイメージは本誌からはもはや感じられない。むしろ患者を理解しようとする医療従事者の切なる声が聞こえてくるようだ。
ある記事のなかで《精神科では、当事者の人たちの知恵として、医療者の前では本当のことを言わないということがよく言われています》と、さらっと書かれていて驚いた。なぜ本当のことを言わないのかというと、言えば治療という「標準化の権力」が入り込んでくるということを当事者が直感としてわかっているからだそうだ。標準的な治療よりも「安心して病気が出せる」ことが、結果的に回復に寄与する場合もあるらしい。
さらに最新号では「生活保護」に関連した特集が組まれているのだが、そのなかの匿名の寄稿記事にも固定観念を覆された。
その記事には、寄稿者がはじめて生活保護を受けてお金をもらった日に、好きでもないパチンコに行ったことが書かれていた。パチンコを打つ習慣もなかったのに、無価値な自分はパチンコをやるべきだと考えたというのである。そして大当たりしないことを望み、1万円を失ってホッとする。パチンコでお金を溶かすことが自傷行為になっているのだ。
外から見ているだけではわからないこのような当事者の声を積極的に拾いあげているところに、弱い立場にある側に寄り添って考えようとする本誌の姿勢が明確に表れている。
そのほかにも「ここが変だよ精神科。私が目撃&体験した不思議ルール」と題して意見を募集し理不尽なルールに疑問を呈する記事があり、別の企画では患者の身体を拘束することへの葛藤を綴(つづ)る医療従事者の声も取りあげられていた。
かつての精神科病院に対する負のイメージの象徴でもあった身体拘束は、患者が転んだり治療用のチューブ類を抜いたりしてしまうことの予防のためや、あるいは暴力をふるう患者への対応など、さまざまな理由によって行われるが、これまで医療従事者側の苦悩については伝え聞くことがなかった。
そうしたすべてを包み隠さず俎上(そじょう)にのせて、活発な議論を喚起させようとする取り組み、そしてどんなテーマも正論で済まさず本質から考え抜こうとする関係者の意気込みに、頼もしさを感じずにいられなかったのである。=朝日新聞2021年3月3日掲載