本心を探すのが難しかった
――私は原作を読んでから試写を拝見したのですが、突如始まるラップにダンスetc.と、原作の一大テーマである「金魚すくい」という題材を活かしつつ、かなりオリジナルの要素を入れこんだ作品になっていましたね。百田さんは原作のことはご存知でしたか?
原作のことは今回のお話を頂いて初めて知ったのですが、漫画は好きなのですぐに読んでみました。尾上松也さん演じる主人公の香芝さんが、金魚すくいをきっかけに人と出会って仲間ができたり、みんなで金魚すくいをやる楽しさも少しずつ知っていったりするストーリーなんですけど、金魚と自分の人生と重ねるという視点が新しくて面白いですよね。
私も小さい頃は、地元のお祭りに行くと必ず金魚すくいをしていたので、割と金魚を身近に感じていたのですけど、こんな風に金魚すくいを人生と捉えて考えたことはなかったので「確かにそうだなよなぁ」と勉強になることもたくさんあるなと思いながら、楽しく読みました。
――「ももいろクローバーZ」のメンバーとして、いつもは「週末ヒロイン」の百田さんですが、本作が初のヒロイン役だそうですね。しかも演じられた吉乃は、原作では「現代版かぐや姫」と言われる役どころでしたが、その分プレッシャーもあったのでは?
吉乃役のお話を聞いた時は「私で大丈夫かな?」と思いながらも、映画は映画として、原作とは違う要素をたくさん取り入れて作られているので、私はどちらかというと、台本を読み込んで、その中から役をつかんでいくことをメインにやっていました。
吉乃は男性からも女性からも一目置かれる存在で、原作でもそうですが、誰も手を出せない、近づけないという雰囲気が漂っているんです。でも、吉乃自身はきっと全然そんなことを考えていなくて、吉乃には吉乃の悩みや思いがたくさんあって、原作にも脚本にも描かれていない彼女の本心を探すのがすごく難しかったのです。「このセリフの裏でどんなことを思っているのかな」とか「今の表情は、何を考えているの?」と、私も吉乃の言動ひとつひとつにすごく惹かれましたし、この役と向き合う時間が楽しかったです。
――本作の舞台は奈良県ということで、吉乃をはじめ、香芝さん以外の皆さんは「奈良弁(大和弁)」で会話していますが、ゆったりとした口調は“はんなり”という言葉がぴったりでした。 同じ関西でも、京都とも大阪とも違うイントネーションなんだなと思ったのですが、苦労した点や難しかったところはありますか?
以前、NHKの連続テレビ小説(「べっぴんさん」)に出演させていただいた時に、関西の方言で話す役だったので、音の感じは一度経験していたので割とすんなり入ってきました。でも些細な音の上がり方などは「同じ関西でも、奈良弁は他とはこんなに違うんだ」ということを改めて思いましたね。一度関西弁を経験しているとはいえ、「最初の一匹ってほんまに嬉しいですよね」とか、全然言えないセリフもあったんです。自分では「何が違うんだろう?」って思うんですけど、やっぱり地元の方からすればちょっと違うらしく、そういう細かいところは難しかったですね。奈良の方の、のんびりしたあの空気感をどうセリフに出そうか、吉乃ってどんな風に話すのかな、と想像しながら撮影に挑みました。
――特にお気に入りのセリフはありますか?
香芝さんに金魚すくいを薦めるときの「一戦、交えてってください」ですかね。そんなこと、今まで言ったことがないので(笑)。
――もしかしたら、このセリフを標準語で言うと少し威圧的に感じるかもしれませんが、奈良弁だとあたたかく感じるのが不思議ですよね。
私もそう思いました。撮影中も、奈良の方々とお話ししているシーンと香芝さんと話している時だと、片方が東京のテンポで、片方は奈良、という話し方のテンポのズレみたいなことが結構あったのですが、それがまたおもしろかったですね。映画を観てくださる方々にも、そんな「東京弁」と「奈良弁」の共演をぜひ楽しんでほしいです。
声へのコンプレックス、克服するまで
――些細なミスで左遷された香芝さん、あることがきっかけで、人前でピアノが弾けなくなった吉乃さん、女優を目指して上京したものの、夢破れて地元に帰ってきた明日香(石田ニコル)さんと、それぞれが挫折やコンプレックスとどう向き合うかが本作のテーマとして一つあったと思いますが、百田さんが共感するところはありましたか。
私も音楽と向き合っていく中で、元々音楽とは無縁の人生だったのですが、そんな中からグループが結成されて、気づいたら「やらないといけない」っていう意識の方が最初は強かったんです。たくさん失敗もしてきましたし、その時のトラウマみたいなものは今でもあります。でもだからこそ、もっと知りたいって思うし「どうしたら今より上手になるかな」というのは、今でも感じています。
――百田さんご自身は、人と比べて何かコンプレックスを感じたことはありますか?
私は人と比べるということをあまりしないんです。誰かと比べるよりも、自分自身と向き合って「なんでできないんだろうな」と思うことの方が多いですね。でも、初めてお仕事で東京に来た時に、私は普段通りしゃべっていた言葉を「その方言、何?」って言われて「みんなこうやって言うんじゃないの⁈」って、そこで初めて人との違いというのを少し感じました。
私は自分の声にすごくコンプレックスを持っていた時期があって「歌っていても上手に聞こえないのはこの声のせいかもしれない」と考えていたことがあったんです。今は「歌の上手い下手は声とは全然関係ないよ」って思うんですけど、当時はかっこいい歌声が自分からは出ないことなどで、コンプレックスを感じていたことはあります。
――そのコンプレックスをどうやって受け入れることができたのですか。
本当にありがたいことに、お仕事をしていく中で、私の声を「好き」と言ってくださる方がたくさんいてくださったんです。「私はこの声をあまり好きではないけど『好き』と言って、求めてくれている人がいるんだ」と思った時に「私ならではの良さがあるかもしれない」と、周りの人たちに思わせてもらっていることはよくあります。結局コンプレックスって、人から見たら「そんなことない」って思うようなことを、自分自身が気にしてしまうんですよね。
――百田さんの声は「ももクロ」の曲を聞いていてもすぐに分かるので、それはすごく武器になりますよね。
今は自分の声が好きになりました。これが私の声なので。でも、この声からあんな声出したいなっていう目標はあるんですよ。なかなか難しいラインがあるんですけど、そこは追求しがいがあると言うか「まだ伸びしろがある!」って思っているので、今後研究していきたいなと思っています。
「百田夏菜子」ではなく「役」として歌う
――映画では劇中歌も多く、百田さんは主題歌も担当されていらっしゃいますが、あの歌にはどんな思いを込められたのでしょう。
主題歌は「百田夏菜子」ではなく、吉乃として歌っているのが新鮮でしたね。歌い方や声の出し方も「私だったらこの歌い方はしないな」というような、今までやってきたことをあえて削ぎ落とす作業もしました。吉乃が発する言葉としてはそんなに多くない中で、きっと映画の最後に流れるこの歌にも、彼女の思いを知るヒントになっているんだろうなと思いながら、吉乃の思いをたくさんのせて歌いました。
――歌詞はなく「ラ」だけでメロディを歌って演奏する曲もありましたね。あのシーンでは、純粋にピアノを弾く楽しさや、自分の気持ちを言葉(歌詞)にできないもどかしさといった、吉乃の様々な感情を含んでいるように感じましたが、百田さんはあのシーンを演じていて、どんな思いがありましたか?
吉乃は口数があまり多くはなく、自分の気持ちを表に出すということをあまりしない女性なんです。でも、きっと常に心の中に思っていることをたくさん抱えているんだろうなと想像していました。その中で、人前では弾けないけどピアノ自体はすごく好きだからこそ、一人の時は色々な気持ちを解放して弾いているんだろうなと思ったんです。普段は言えない言葉を音楽にのせて、自分と向き合い、自分の感情を音楽に吐き出しているんだろうなと感じました。
だけど、普段言えない思いを解放してピアノにのせている吉乃の姿は、客観的に見ているとすごく切ない感じもあるんです。私自身吉乃を演じている中で、普段は言いたいけど言えないのを我慢しているんだろうなと思うことが多かったので、あのシーンで誰にも見られずにピアノを弾いている時は「ここでしか自分の思いを開放できない」という気持ちと、心から好きな時間を楽しんでいる二つの感情が出せたらいいなと思って大切に演じました。
――言葉は「ラ」だけでも、音楽にのせると色々な感情が伝わるものなんですね。
海外で「ももクロ」のライブをさせていただいた時も、言葉は通じなくても音楽だけでつながっているなということは本当に感じますし、人の感情が音楽にのっている時に届いてくるものって、言葉で交わす以上のものだったりもしますから。
――時には放っておいて欲しいこともあったかと思いますが、多少強引でも、閉じこもった殻から救い出そうとしてくれる香芝さんは、吉乃にとってきっと大きな存在だったんでしょうね。
私もあまり自分の感情を表に出すのが得意ではないので、吉乃の気持ちがすごく分かるし、吉乃にとって香芝さんという存在がどれほど救いになっているだろうなということはすごく感じます。ちょっと強引ですけど(笑)、あんな風に手を差し伸べてくれて、最初は「この人は何?」と思いながらも、どこか本当に救われている部分がたくさんあるんだろうなって思うんです。
私自身も、悩んだ時に救われるのって、やっぱり誰かの何気ない言葉だったりするんですよね。特に悩みを相談したわけじゃないけど、その時間を一緒に過ごしてくれただけで、なんだか心が楽になっていることがよくあります。あとは一人じゃないということも大きいですよね。なので、メンバーや家族の存在って本当に大切だなと思うし、私も誰かにとってそういう存在になれる時があったらいいなと思います。
――ところで、百田さんは普段から漫画を読みますか?
常に読んでいるというわけではないのですが、友達に紹介してもらった作品を一度読み始めると、全巻読むほどハマることはあります。最近は『約束のネバーランド』ですね。
まずアニメから入って、漫画を読んでみたくなってハマったという感じです。