「学問の自由が危ない」ほか1冊 書評 6名はきっと あなたでわたし
ISBN: 9784794972507
発売⽇: 2021/01/29
サイズ: 19cm/302p
ISBN: 9784846020217
発売⽇: 2021/02/08
サイズ: 19cm/231p
学問の自由が危ない 日本学術会議問題の深層 [編]佐藤学ほか/私たちは学術会議の任命拒否問題に抗議する [編著]人文社会系学協会連合連絡会
昨年10月1日に報じられた、日本学術会議会員候補者6名の任命拒否は、まずは直接の関係者に大きな衝撃を与え、その衝撃は間接的な関係者や心ある多くの人々にも波及した。
筆者は居てもたってもいられず、本件の公表直後に首相官邸前で開催された集会に、急いで手作りしたプラカードを携えて参加し、知人に見つけられて即興のスピーチをした。そこで話したことの中で覚えているのは、「首相はこの理不尽な任命拒否の理由を説明できるわけがないが、だからこそ説明させる必要がある」ということだった。
それからおよそ半年が経つ間に、拒否に至る経緯の細部などが明らかになった。また、これらの書籍にまとめられているように、多くの緻密(ちみつ)な批判や反対声明が提出され、問題ずらしの学術会議批判や改革案がいまだに紛糾している。しかし基本的には、説明できるわけがないことが説明されていないという、当初から明らかだった事の本質には何の変化も無い。
『危ない』は有志の編により1月の末に、また『抗議する』は文系の多数の学会の連合体である「人文社会系学協会連絡会」の編により2月に、相次いで出版された。いずれも文系の研究者が中心となり、ジャーナリストなどの参加も得て、任命拒否問題がどれほど大きな問題なのかを多角的に指摘する章と、諸学会の声明から構成されている。任命拒否とは、法を杜撰(ずさん)な解釈でねじ曲げた不当行為であり、学術・文化・民主主義の破壊であり、現政権に濃厚である恣意(しい)と専横が凝縮された事件であった。
両書を併せ読むことにより、この問題への包括的な理解が得られることは言うまでもない。ここでは、『抗議する』に収録されている、石川逸子氏の詩の一部を紹介するにとどめよう。「6名は きっと あなたであり/わたしなのです/わたしたちの首を絞める 手が/すぐそこまで スウッと伸びてきています」
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さとう・まなぶ 学習院大特任教授▽人文社会科学系の学会代表約40人の連絡会。この問題で共同声明を出した。