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松井玲奈さん「累々」インタビュー 使い分ける「顔」、絡み合って

松井玲奈さん=chihiro.撮影

 人には多面性があると思います。AさんにはBさんのことがいい人だと映っても、CさんはBさんのことが嫌な人だと感じる。見えている部分が違うんです。ルーレットを回すように、その場その場に当てはまるところに止まって、人と接するときの自分を使い分けている。

 そういったものを題材に小説を書きたいと思いました。2年つきあった彼氏からプロポーズを受けた小夜、恋愛シミュレーションゲームのようにパパ活を繰り返す星野、様々な一面を見せる登場人物たちの物語を五つの短編にまとめました。

 書きあげるのにだいぶ時間がかかってしまいましたね。短編一つ一つを読み進めるうちに、他との関連性も見えてくる仕掛けが隠されているので、書いては戻り、まるっと全部書き換えることもありました。

 主人公が美術に造詣(ぞうけい)が深い設定にしたので、美大生に取材もしました。色使いの描写も丁寧にと心がけました。ブリューゲルのバベルの塔が小説の鍵として登場するのですが、小説全体の雰囲気もバベルのように不穏さが漂っていると思います。お互いは気づいてはいないけれど、複雑に絡んでいて集合体になっているというような。

 小説自体を書くようになったのは、エッセーなどを書く中で勧められたのがきっかけです。執筆は、一人でぽつんと孤独な作業。家でコーヒーを片手に、たまに音楽を聴きながら書いています。芝居の仕事は、監督やカメラマンなどチームでつくっていくので正反対の感覚です。

 芝居も執筆のお仕事も、両方ともいくつになっても続けられるのが魅力です。年齢とともに演じる役は変わり、書きたい内容も変化するけど、意欲ある限り続けたいです。次は長編にも挑戦したいと思います。(聞き手・森本未紀 写真・chihiro.)=朝日新聞2021年3月17日掲載

松井玲奈さんのサイン