1. HOME
  2. コラム
  3. 大好きだった
  4. 斜線堂有紀さんがずっと通い続けたゲームセンター 人を楽しませる為だけに存在する不要不急の楽園

斜線堂有紀さんがずっと通い続けたゲームセンター 人を楽しませる為だけに存在する不要不急の楽園

 ゲームセンターが好きだ。人を楽しませる為だけに存在している空間が、他の何より非日常を感じさせてたまらない。大人は遊ばないものである、という小さい頃の固定観念を壊し、大人になっても遊ぶ場所があり続ける、と思わせてくれるのがゲームセンターだった。

 クレーンゲームの筐体に入っているぬいぐるみが欲しくて、両親にねだったのが最初だったと思う。あの奇妙な形のアームがゆらゆらと揺れて、ぬいぐるみを掴んで持ってきてくれる。その光景を見た時に、私はゲームセンターのことがすっかり好きになってしまったのだった。遊園地みたいなところが町中にある。そう思うと、なんだかワクワクして眠れなくなってしまった。

 あまりに私がゲームセンターに夢を見ていたからだろうか。ゲームセンターは特別な時に連れて行ってもらえるところだった。病院帰りで落ち込んでいる時に初めてやったメダルゲームや、気まぐれにやらせてもらったエアホッケーは思い出深い。

 お小遣いをある程度自由に使えるようになった中学生くらいの頃には、私のゲームセンター熱は最高潮に達していた。アーケードでレトロゲームの攻略に勤しんだり、クレーンゲームで獲れそうなものを狙ってみたり。この頃には「戦場の絆」も稼働を開始していた。あのポッド型の筐体に心を躍らせることとなった。グフって実際に載ってみるとこんな感じなんだな、と思ったのを覚えている。これを自在に乗りこなしてたんだから、ランバ・ラルはやっぱり凄かったんだな、とも。(余談だが、去年「戦場の絆Ⅱ」が出て復帰しようかなと思った)

 あとは、クイズマジックアカデミーもとても熱かった。限られたクレジット数で効率よく大賢者になる為に、クイズの予習をするようになった。学校の勉強よりもクイズを学び、クララを育てる日々である。音ゲーにはハマらなかったが、色んな人が華麗なボタン捌きをしているのを見るだけで楽しかった。ゲームセンターの良いところは適度に賑やかでうるさいところである。あの空間にいると、自分の輪郭が溶けて茫漠とした「楽しさ」の塊のようなものになれるような気がした。

 高校生・大学生になって色々なバイトを経験したものの、並行してずっと続けていたのがゲームセンターのバイトだった。あの楽しい空間の中で、色んな人が遊んでいるのを見ながら働けるのがよかった。そして、バイトが終わるとそのままアーケードのブレイブルーやスプラッターハウス、ファンタジーゾーンやぷよぷよで遊んだ。プリパラには全身全霊を懸けた。二十歳を迎える前には既に「自分はまともに就職出来ないだろう」と思い始めていたのだが、この趣味の延長線上のような働き方だったら出来るのではないかとも思った。楽しさに寄り添いながら働けたらな、と思い、結局私は小説家になったのだが、本気でゲームセンターで働き続けようと思うくらいには、私にとって大きな場所だった。知らない土地に旅行に行っても、まず間違いなくゲームセンターには立ち寄る。その街の特色が出ていて面白いのだ。

 ゲームセンターがある街はいい街だと思っているので、どんな場所にでもゲームセンターがあってほしいし、ずっと無くなってほしくないと思う。

 ただ、2021年現在、ゲームセンターを取り巻く環境はあまり良くはない。新型コロナウイルスことCOVID-19の所為で、客足が遠のいているからだ。ゲームセンターは客同士が喋る場所ではないが、それでも手で触れる箇所が多く消毒が大変である。そうでなくても、不要不急の外出自粛が推奨される今の状態では、ただ純粋に遊ぶ為だけの場所であるゲームセンターは行くのに少し躊躇いを覚える場所なのだろう。

 私が好きだったゲームセンターは、既に何軒も閉店してしまった。

 私が働いていた時ですら、ゲームセンターは景気の良い場所ではなかった。クレーンゲームを楽しむ人はどんどん減っていたし、アーケードゲームはソシャゲやコンシューマーゲームに追いやられていた。その上でこの逆風だ。もたない店が出てくるのは不思議じゃなかった。

 今のゲームセンターは何だかちょっとがらんとしている。特性上ごみごみしやすい店だから、ソーシャルディスタンスも取りづらいのだろう。何から何まで逆風だ。

 でも、私はどうにかしてゲームセンターに残ってほしいと思っている。人間が遊ぶ為だけに用意された不要不急の楽園が活気を取り戻してほしいとも思っている。だから、何かの折にゲームセンターを通りかかると、何とはなしにクレーンゲームで遊ぶ。中学生の私にはハードルが高かった遊びだ。それに、惜しげも無くクレジットを入れ、ぬいぐるみを持ち上げようと奮闘する。

 クレジットを入れる時、私はなんだか祈っているような気分になる。私一人が遊んだところで大きく状況が変わることはないだろう。けれど、これがゲームセンターの明日を繋ぐことになってくれ、と願っている。私の大好きだった場所が、これからもそこに在り続けてほしい。

 とはいえ、あっさりとぬいぐるみを離してしまうアームには悔しさと怒りを覚えてしまうのが人間の心なのだが。私は大人しくクイズマジックアカデミーの方を頑張るべきなのかもしれない。