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「生態学者の目のツケドコロ」書評 スマホいじらずまわりを見よう

評者: 黒沢大陸 / 朝⽇新聞掲載:2021年03月27日
生態学者の目のツケドコロ 生きものと環境の関係を、一歩引いたところから考えてみた 著者:伊勢武史 出版社:ベレ出版 ジャンル:生命科学・生物学

ISBN: 9784860646424
発売⽇: 2021/01/26
サイズ: 19cm/242p

生態学とは、生物とそれを取り巻く環境の相互作用を考える学問分野。生態系や外来生物、生物進化、生物多様性、環境問題など、世界的に関心が高まっている話題を取り上げ、やさしい文…

生態学者の目のツケドコロ 生きものと環境の関係を、一歩引いたところから考えてみた [著]伊勢武史

 田舎のバス停での2時間待ち。著者は平気だという。畑、里山、建物、あらゆるものに興味が尽きず、観察の対象になる。
 日の光を得るため太い幹で高みを目指す木、絡みつき効率よく上を目指すツル植物、人が癒やされる森も実は生存をかけた戦場。樹木は「まさに戦闘機械」だ。屋根で咲く花も道端の雑草も、その微妙な環境で生息する理由がある。広がる思索を楽しんでいたら、すぐ時間が経つだろう。
 野外調査の経験から調べきれぬ地球の広さを感じ、コンピューターに生態系を再現して研究する著者。世界中の木を伐採したら100年後どうなるか、人間の無謀な行動も計算できる。異質な「オタク仕事」をする生態学者は、人と自然の関係を考え続ける。
 繁栄する大型哺乳類である人間は、環境に支配されながら、改変もする生態系エンジニア。「少し気の利いたビーバー」のような存在なのだ。
 生き残りに危惧がなく、衣食住が満たされれば、環境問題を考える余裕ができる。でも、安直に解決を目指してはいけない。水が汚れた、希少な魚が減った、そこに相関はあっても因果関係があるのか。行動する前に考え、勉強しようと訴える。
 話題は、文化、暮らし、「コスパ至上主義」の科学研究や政策の課題。さらには、人間のこころの発達を考える進化心理学にも広がっていく。本を読んで知識や新しい考え方を知る延長の楽しみとして、生態学者のような視点で野山を観察して考えを巡らせてみたくなる。植物の名前と生育できる環境を知れば、新しい風景が見えてきそうだ。
 生態学者に限らず、地質学者や気象学者にも独自の自然観や人間観があるだろう。いや、特定の専門がなくても、知識を深め、自分なりの視点でじっくり観察すれば世界が広まるはず。
 ふとした空き時間、まわりを見て考えよう。スマホなんかいじらずに。
    ◇
いせ・たけし 1972年生まれ。京都大准教授(生態学)。著書に『生物進化とはなにか?』など。

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