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震災の惨状を俳句で再構築 「照井翠 句集 龍宮」など山田航さんが薦める新刊文庫3冊

山田航が薦める文庫この新刊!

  1. 『照井翠 句集 文庫新装版 龍宮』 照井翠著 コールサック社 1100円
  2. 『大杉栄伝 永遠のアナキズム』 栗原康著 角川ソフィア文庫 1320円
  3. 『禁忌習俗事典 タブーの民俗学手帳』 柳田国男著 河出文庫 990円

 (1)は岩手県釜石市で東日本大震災に被災した俳人の句集。津波の惨状が慟哭(どうこく)のように詠まれた、衝撃的な俳句が冒頭から続く。

 ランドセルちひさな主喪ひぬ
 ボンボンと死を数へゆく古時計
 盆近しどれも亡骸(なきがら)無き葬儀

 これらの句が実景とは限らない。もともと外国の辺境などを旅しては、日本的な自然美よりも異質な風土性を打ち出してきた俳人。だからこそ、見慣れた東北の風景が瓦礫(がれき)に埋もれるのを目の当たりにした記憶を異界へとつなげ、幻想的な世界の構築へと向かえた。

 三・一一神はゐないかとても小さい

 震災という圧倒的不条理を、神の不在として受容しようとする姿勢は、遠藤周作の『沈黙』を思わせる。

 (2)は明治大正を駆け抜けたアナキスト・大杉栄の評伝。理論より気分を重んじ、孤立をいとわない奔放な自由人としての大杉像を描いている。それを引き立たせているのが著者独特の文体。ときおり大杉が乗り移ったかのように口語的な独白体になることがあって、疾走感に満ちている。

 (3)は1938年刊行の『禁忌習俗語彙(ごい)』の復刊。日本全国で収集した、日常の中の「禁忌」の事典。どれも迷信にすぎないが、「女が男の帯を襷(たすき)にすると猿腕(さるうで)の子が出来るという(豊後大野)。どんな腕かは知らぬが」など、想像力をかき立てられるものもある。月経や出産に対するケガレの意識がとりわけ目立つことは、柳田だからこそ記録できた部分。=朝日新聞2021年3月27日掲載