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「オクトーバー・リスト」など 村上貴史さんが薦める新刊文庫3冊

村上貴史が薦める文庫この新刊!

  1. 『オクトーバー・リスト』 ジェフリー・ディーヴァー著 土屋晃訳 文春文庫 1045円
  2. 『ネメシス1』 今村昌弘著 講談社タイガ 759円
  3. 『紙鑑定士の事件ファイル 模型の家の殺人』 歌田年著 宝島社文庫 759円

 どんでん返しの名手による(1)は、三日間の出来事を三十六の章で綴(つづ)ったサスペンス。最大の特徴は、その章が時間を遡(さかのぼ)る順に並んでいる点だ。巻頭に置かれた最終章で誘拐事件が進行中らしいことが読者に提示され、その後、小刻みに過去に戻りつつ、警察など関係者の動きが示されていく。各章の緊迫感は絶品であり、章の連鎖に仕込まれた意外性も絶妙だ。さらに全体としての驚愕(きょうがく)も備わっていて、最終頁(ページ)に到達後、冒頭から読み直すこと必至。その再読時には、細部に仕込まれた作者の企(たくら)みをたっぷり満喫できる。二重の満足を備えた一冊だ。

 『屍人荘(しじんそう)の殺人』でデビューした著者の二年ぶりの第三作(2)は、探偵事務所ネメシスが活躍する中篇(ちゅうへん)二本を収録。第一話は大富豪宅での密室殺人を、暗号とダイイングメッセージで味付けした一作。後者の扱いが抜群に愉快だ。第二話は遊園地の来客全員が人質でかつ容疑者という特殊な状況で読者を魅了し、さらに犯人特定の論理で酔わせる。なお、本書は他の作家も加わってシリーズ化され、ドラマ化もされるとのこと。

 ジオラマが手掛かりの失踪人探しという難題に、紙鑑定士がプラモデル作りのプロと組んで挑むという(3)は、「このミステリーがすごい!」大賞の大賞受賞作。探偵役二人の異能が新鮮であり、彼らが見いだす新情報が次々に連鎖していく展開も刺激的だ。物語が進むにつれ、事件の闇が深まり、アクションが加速する構成も秀逸。デビュー作とは思えぬ熟練の仕上がりである。=朝日新聞2021年4月10日掲載