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フルポン村上の選句修行 パンサー・向井慧さん、俳句作家の佐藤文香さんとトークイベント

文・写真:加藤千絵

>書籍化記念イベント第1弾「好書好日 俳句フェス」のリポート記事はこちら

村上さんの句は「発想がおもしろい」

 「フルポン村上の俳句修行」が『フルーツポンチ村上健志の俳句修行』として出版されたのを記念して、5月7日19時半、オンラインイベントが配信されました。東京・池袋のジュンク堂書店に集ったのは村上さんと俳句作家の佐藤文香さん、MC役のパンサー・向井慧さん。村上さんと佐藤さんは、佐藤さんが主宰する「小部屋句会」に村上さんが参加して以来の再会となりました。

>佐藤さんが主宰する「小部屋句会」の記事はこちら

 前半は、村上さんがさまざまな句会に参加してきた記録を本で振り返りつつ、3人でフリートーク。「句会によって評価のポイントってこんなに違うんだって思ったんですけど、いろんなところに行って、俳句の軸はぶれないんですか?」と向井さんが質問すると、「僕は軸がないからどこでも行けたって感じ。俳句って季語があって17音ですよね、くらいのレベルだから、どこでも行けるのよ」と村上さん。「句会慣れしたかも」という発言に、佐藤さんは「(連載初期だった)私の句会に来たときはすごくおびえてましたよね」と笑いつつ、村上さんの俳句のよさを「発想がおもしろい句が多い」と話します。

 「人によっては俳句の技術はバッチリだけど発想がそもそもダメっていうパターンもあって、それだとどう直してもうまくいかないんですよね。すでに似たような句(類想類句)があることが俳句にとっては一番ダメで、それがないだけで合格点を超えているところがあるんです。村上さんはたぶん類想がないことをお笑いでやり続けていて、それが俳句に生かされているんじゃないかな」

 「技術的に足りないところがあるなら、アイデアとしておもしろいものを持って行こう、と思ってずっとやってきました」と村上さん。向井さんも「それが村上さんっぽい個性になってるってことですね」と続けます。

さらに上達するためには?

 これからさらに上達するには? という向井さんの質問には、「俳句の作家として書いてる人って、その人らしい文体があるんですよね。お笑いだとしゃべり方とか顔芸とかでその人らしさが出るじゃないですか。でも俳句って文字だけなので、顔とか声みたいなものをどうやったら文字情報に乗っけられるか」と佐藤さん。オーソドックスな俳句から次の段階に進むには、「作家性にどう踏み出すか」だと言います。「今の村上さんはストレートにうたっていらっしゃいますよね。ここから体臭とか声のかすれのようなものをどう俳句に乗せていくか。文体とかリズムの崩し方とか、内容と言い回しの掛け合わせで作家性が出てくるので、これからが楽しみです」

 それを受けて「俺だけ他の俳人よりフォントをでかくすることできないのかな」と村上さんがボケると、すかさず向井さんが「フォントの文字情報だけじゃダメですよ!」とツッコミ。しかし意外にも、句集を出すときには「書体、サイズ感、文字の景色が自分らしいだろうかというのは考えます」と佐藤さん。

 「そんなところまで考えてるんですか!?」と驚く向井さんを横目に、「文字を全部白抜きにして、塗り絵ができるように・・・・・・」と村上さんがボケを重ねると向井さんが「クソ作家になっちゃいますよ」とやんわりたしなめるなど、トークは終始にぎやかに進行しました。

「うそ」俳句の選句結果を発表

 イベントの後半では、「うそ」をテーマに公募した俳句から村上さんが選句する「選句修行」の様子が公開されました。全国から集まった122句の中から並選7句、特選3句の10句を選び、特選になった3人には『新編 山頭火全集1巻』(春陽堂書店)や村上さんのサイン入り「山頭火トートバッグ」が贈られます。「(村上さんと種田山頭火の)ダブルネームですね」という向井さんの振りに「昔から山頭火のトートバッグにサインを入れるのが夢だったんです」と村上さんが笑いを誘ったところで、早速発表していきます。並選7句は以下の通りでした。

ハンモック分け合ふ腕のやはき嘘 露草うづら
宿題はあの郭公が食べました 川原つばめ
サイダーもビールも同じてふ先週 むゆき
三月や水は時々うそをつく 安
目を逸らす花瓶に褪せた四葩あり 音羽凜 
卯の花腐しブラのパッドの厚みほど 小泉野魚
冴返る嘘発見器修理中 田口翔大*四葩(よひら)=アジサイ

 村上さんが選ばなかった句の中から、佐藤さんが「うそ」が響いていると思った句も披露されました。

風船を描き足す空の写生かな 楓葉
嘘つけば氷河のきしむ音の聞こゆ 奈良香里
和箒のギターセッション暮れかぬる 藤色葉菜
青蔦のカフェ汝は足を組み直す 大野旬子

いよいよ特選3句の発表です

菜の花やセルフジャッジの草野球 かむろ坂喜奈子
流しきる香水瓶に光る嘘 彼方ひらく
玉葱の擬態す串かつA定食 せり坊

「菜の花」の句は、「うそ」というテーマの中で「“セルフジャッジ”という言葉がきらめくし、草野球の光景が見える」と村上さん。「香水瓶」の句は「香水という自分の匂いでないものをつけようっていう感覚がもう、嘘なのかもしれないし、瓶にきらめいているのが嘘だよ、ってことかもしれない。不思議な詩を感じた」と村上さんが評する一方、「香水瓶は流さないだろ、ってツッコミが入るかもしれない」という佐藤さんの指摘も。「香水を流すや瓶に光る嘘」または「流しきる香水 瓶に光る嘘」という提案がありました。「串かつA定食」は「串かつが好きだから取っちゃった」という村上さん、「○○定食はよくあるけど、それが串かつで、A定食っていうのがかなり細かいことを言っていておもしろい」という佐藤さんともに、好評価でした。

【出版記念企画第3弾は特別対談を予定しています。来月をお楽しみに!】