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人気作家が小学生のときに読んでいた本は?

辻村深月さんが図書館で出会った「ズッコケ文化祭事件」

 人気のミステリー作家・辻村深月さんは、小学生のときからミステリーが好きだったそう。『ズッコケ文化祭事件』を手に取ったのも、タイトルに「事件」とあったから。小学校の図書館の一角を占める「ズッコケ三人組」シリーズに対して、最初は「大人が薦める児童文学」というイメージを持っていたそうですが、読み始めると「すごいものを読んだ」と思う名シーンに出会います。

大人同士の真剣勝負、まるで殴り合いのような言葉の応酬。──読み終えて、茫然としながら、泣きそうなくらい感動したのを覚えている。二人の言い合いはショックを受けるほどに怖かったけど、その向こうに「誠実で信じられる大人」の確かな存在を感じた。小学生だった私が当時感じていた「大人の思う子ども」に対する違和感の、およそすべてがそこに説明されていた。大人が薦める児童文学、だなんてとんでもない。『ズッコケ三人組』は私たち子どもの味方の本だった。

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塩田武士さんが高校1年まで買い続けた「学校の怪談」シリーズ

 『罪の声』『騙し絵の牙』など社会派小説で知られる塩田武士さん。塩田さんの母親はちょっと変わった読み聞かせをしていて、松本清張が描いた復讐劇を語っていたそうです。その体験を通して、幽霊よりも「人間の悪意が一番怖い」と思っていた塩田さんは、小学5年生で『学校の怪談』を書店で見かけたときに「鼻で笑った」とか。当然「口さけ女」や「人面犬」をめちゃくちゃな設定だと感じていたのですが、「うばった指輪」という清張風のタイトルを冠したエピソードを読んで、態度が一変します。

或るタクシー運転手が乗客の女性を殺害し、指ごと切断して立派な指輪を奪う、というシリアスなもので、3年後、タクシーに乗せた男の子から衝撃の一言を浴びせられる。この話で怪談に興味を持ち、高校1年生になるまで『学校の怪談』シリーズを買い続けることになる。生まれて始めてハマった物語集。私は新刊が出るたびに購入し、気に入った話を繰り返し読んで覚え、友人に話して怖がらせることに喜びを感じるようになった。

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深緑野分さんが7歳で出会った「ぼくのつくった魔法のくすり」

 2018年に刊行したドイツが舞台のミステリー『ベルリンは晴れているか』が、直木賞候補や本屋大賞3位になり話題となった深緑野分さん。幼少期は「頭を洗うと砂だの小石だのがたんまり出てくる」ほどおてんばだったそうで、「もっと本に夢中になってほしい」と母親が薦めたのが、ロアルド・ダールの『ぼくのつくった魔法のくすり』でした。

私は子どもの機嫌を取る大人も子どもや動物をいじめる大人も嫌いだったし、お行儀のいい児童書には居心地の悪さを感じて、本の扉をなかなか開けられずにいた。でもロアルド・ダールが書く物語は違う。まるで、巨大で自由自在に遊べる砂場を本の中に用意して、お節介を焼こうとする大人を近づけないよう見張り、それでいて自由や正義や善を教え、自分には生きる力があると信じさせてくれるような。

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山内マリコさんが読みふけった「20世紀全記録」

 『ここは退屈迎えに来て』『アズミ・ハルコは行方不明』『あのこは貴族』が立て続けに映画化されるなど、人気作家の仲間入りをしている山内マリコさん。中学生の頃、家族の中で「突然変異的に小説を愛好しだし」て、「バックボーンとしての本棚はとても混沌としている」そうですが、小学生のころから、暇を持て余しているとよく本棚から持ち出したのが、父親が気まぐれで購入した『20世紀全記録』。20世紀の世界の出来事を1カ月ごとにまとめたアーカイブ本です。

わたしはこの本で、知ってしまったのだ。もう大概の面白いことは、すでに起こってしまったのだと。あまりの面白さに無我夢中でページをめくりながら、どんどん“空白”が埋められていくことに言い知れない怖さを憶えた。もうこの世界に面白いことが起こる余地は残されてないのに、わたしはこれからなにをすればいいんだろう? 1980年なんかに生まれてしまったわたしは一体なにを……? いつの時代に生まれようと、そこがスタートなわけだけど。

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柚木麻子さんがむさぼり読んだ「おちゃめなふたご」

 『ナイルパーチの女子会』『BUTTER』などで、現代の女性が直面する悩みや心の揺れを描き出す柚木麻子さん。小学生のころにむさぼり読んで、「中学は女子校以外考えられなくなって受験を決意したほど」の作家が、イギリスの児童文学作家エニド・ブライトンです。600冊以上の著作があるとされていて、いずれも1940年代のイギリス寄宿舎学校を舞台とした少女小説。柚木さんいわく、一番有名なのは『おちゃめなふたご』、次点は『はりきりダレル』、比較的通好みなのは『おてんばエリザベス』。いずれも問題を抱えたヒロインが、寄宿舎生活を通じて素敵な女の子になる物語です。

ここでいう「素敵」の定義ははっきりしていて、勉強とスポーツ両面に優れ、弱いものいじめを絶対に許さない、人望あるリーダーになることだ。ふたごはそろって生徒会長、ダレルは級長、エリザベスは代表委員を任されるまでに成長している。ゴリゴリの成果主義ではあるが、可愛い、愛され、になんの価値も見出さず、実績と信頼のみ評価されぐんぐんパワーアップしていくストーリーは、第二次性徴を迎えて学校でモヤモヤすることが多い私には、自分がそれをやれるかやれないかは置いておいて、非常に痛快だったのだ。

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知念実希人さんを虜にしたシャーロック・ホームズ

 医療ミステリー「天久鷹央の事件カルテ」シリーズが人気で、現役の医者でもある知念実希人さん。中学、高校では授業中に隠れて文庫本を読みあさるほど小説が大好きだったそうですが、そのきっかけになったのが小学校低学年のときに手に取ったモーリス・ルブランの『奇巌城』。それからルパンシリーズを片っ端から買い、それが終わるとアガサ・クリスティやエラリー・クイーンを読みあさり、ついに出会ったのがシャーロック・ホームズです。

ストーリーもさることながら、ホームズシリーズの最大の魅力は、主人公であるシャーロック・ホームズにこそあると、私は常々思っている。一風変わった名探偵が不可思議な謎を鮮やかに解いていく。そこに、読者は惹かれるのではないだろうか。ちなみに私の看板シリーズである『天久鷹央の推理カルテ』の主人公、天久鷹央のモデルも、実はシャーロック・ホームズである。医学をテーマに超常現象としか思えないような不可思議な謎を作り出し、それを風変わりで魅力的な探偵役に解かせようと思って創り出したシリーズだ。

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