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川内倫子 『Des oiseaux(On birds)』 ツバメの子育てを追っただけ、ではない

『Des oiseaux(On birds)』から。8月中旬、店頭で発売予定。オンラインショップ(hehepress.com)で先行発売中

 昨年の4月から6月にかけてのツバメの親子の姿。それしか写ってない。派手な、カッコいい写真は1枚もない。写真家の近所のツバメの巣。ツバメの子育てを追っただけの写真集。でも本当にそれだけ?

 空が写っている。木々が、葉っぱが写っている。人は写ってないが、家の軒先が写っている。電線に並ぶ親ツバメの、その電線の先には人がいる。コロナ禍で、戸惑って、いろいろ考え、悩み続けている人間たちの世界がある。そんな人間の場所から、ツバメを見ている。渡り鳥であるツバメは、世界の空を飛んできて、今ここに、いる。空をずっと見つめてきたツバメの黒い目の中の光。その小さな光がまぶしくて、目を閉じる。目を閉じても感じる光。この写真家の仕事はいつも光を、私たちの記憶に焼き付ける。

 世界の写真家による鳥のシリーズ「デゾワゾー」の1冊。巻末には鳥類学者ギレム・ルザッフルによる解説がある。読者を世界中のツバメのもとへ(もちろん川内倫子の写真に接近しながら)連れていく。=朝日新聞2021年8月7日掲載