1. HOME
  2. コラム
  3. 編集者(が/を)つくった本
  4. ポプラ社・吉川健二郎さんをつくった「ズッコケ財宝調査隊」 世代超え、惹きつける魅力

ポプラ社・吉川健二郎さんをつくった「ズッコケ財宝調査隊」 世代超え、惹きつける魅力

 けっして読書好きな子どもではなかったが、小学校の図書室へはよく足を運んだ。時代を超え、多くの人の手を経てきた本の放つ独特の香りに、言い知れない魅力を感じていた。その本が目に留まったのは偶然だったが、書名には当時十歳だった私を虜(とりこ)にする強烈なインパクトがあった。

 『ズッコケ財宝調査隊』。花山第二小学校六年一組のクラスメイトであるハチベエ、ハカセ、モーちゃんの三人が、校内外で巻き起こる騒動や、思いがけない事件で奮闘する姿を描く不朽のシリーズとの出会いだった。夏休みに泊まりがけで出かけたモーちゃんの親戚の家で、三人はモーちゃんの伯父が遺(のこ)した「日本軍の戦争犯罪の証拠をにぎってる」という言葉の存在を知る。伯父は終戦から二年後、僅(わず)か十三歳で亡くなっていた。読者を飽きさせぬよう技巧を凝らした先の大戦の色彩と、ミステリの香りを纏(まと)わせつつも、戦争への怒りや謎解きに主眼を置かず、少年三人の関係性を軸に据えた物語の展開は、世代を超えた読者を惹(ひ)きつける魅力に満ちていた。

 物語の醍醐(だいご)味とは、物語設定の根幹を“創作”し、細部は徹底してリアリティを突き詰める点にあると思う。私はそのことを「財宝調査隊」から学んだ。

 作者である那須正幹(まさもと)さんが、今年七月に亡くなられた。誰に対しても目線を変えることなく、穏やかに話をしてくださる姿が印象的だった。縁あって入社したポプラ社の一員として、那須作品の、そしてズッコケシリーズの魅力をこれからも伝えていけたらと思う。=朝日新聞2021年9月8日掲載

 ◇よしかわ・けんじろう 74年生まれ。ポプラ社・文芸編集部。