ISBN: 9784409510865
発売⽇: 2021/08/27
サイズ: 19cm/371p
「ベトナム戦争と韓国、そして1968」 [著]コ・ギョンテ
長らくベトナム戦争の経験が直視されることのなかった韓国で、少しずつ歴史の見直しが進んでいる。
そもそもベトナム戦争は「アメリカとベトナムの戦争」ではない。元は南ベトナム(当時)の革命勢力と政府軍の内戦に米軍が介入した「宣戦布告なき戦争」で、さらに豪州など4カ国が国際監視軍の名目で部隊を派遣。米国の求めでアジアの同盟諸国も派兵した。
そこでひときわ存在感を放ったのが韓国である。軍政を敷いた当時の朴正熙(パク・チョンヒ)政権は戦闘部隊の派遣とひきかえに米国市場へのアクセス権を手にし、1960年代後半から70年代には毎年約5万人を派兵。その数は累計で32万5千人を超える。「漢江(ハンガン)の奇跡」と呼ばれる韓国の急速な戦後成長はその賜物(たまもの)なのである。
しかしこの過去は韓国では無視される傾向にある。ひとつはそれが米国の「不名誉な戦争」に加担した軍政下の暗い記憶とつながるため。もうひとつが、勇猛で鳴らす韓国部隊がベトナムで起こした民間人虐殺事件のゆえである。
本書は90年代にこれらの事件を報じて大きな論議を呼んだ週刊誌「ハンギョレ21」のベテラン記者による「戦争加害」の調査報道だ。取り上げるのは68年2月、革命勢力の大攻勢の直後に韓国海兵隊が中部フォンニ・フォンニャット村で起こした虐殺事件である。
当時の韓国兵と村民の加害・被害双方の当事者をはじめ、革命勢力の元ゲリラ兵や現場を撮影していた米海兵隊の元兵士の証言などまで、10年以上かけて取材している。読者は伊藤正子『戦争記憶の政治学』(平凡社)と併せ読めば全体像をより理解しやすいだろう。
ちなみに同じ時期、派兵こそしなかったものの、国土全体を米軍の巨大な後方兵站(へいたん)基地に差し出すことで日本は高度成長を手にした。それはさながらコインの半面のようで、当時の日本の反戦運動にも多く言及した本書とは裏腹の思いを募らせるのである。
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koh,Kyoung-Tae 1967年生まれ。韓国のハンギョレ新聞記者。週刊誌「ハンギョレ21」編集長など歴任。