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西原みのりさんの絵本「おちばいちば」  落ち葉が魚や料理、小物に

文:日下淳子

きっかけは魚市場の光景

――季節の色を感じる秋、落ち葉で遊んだり、どんぐりを拾ったり、森は遊びの宝庫。そんな秋の世界をめいっぱい楽しませてくれるのが、西原みのりさんの『おちばいちば』(ブロンズ新社)だ。市場では、落ち葉の一つひとつが魚になり、いちょうの天ぷらに木の実のジュースが所狭しと並ぶ。小さくなったさっちゃんが、どんぐりぼうしのお金で買い物に出かける、夢のようなお話。

 絵本を作るきっかけは、魚市場の光景なんです。ある日新聞の一面に、魚市場を俯瞰で撮った写真が載っていて、さまざまな魚がずらーっと並んだその写真が、とてもおもしろかったんですよ。「これが、落ち葉や木の実でできていたら、楽しいだろうな」と思い、1枚の絵にしてみました。そこから、この世界には他にはどんなお店があるかな、どんな店主がいるのかな、どうしたらここに行けるのかな……とイメージがどんどん膨らんでいってお話ができました。色とりどりの落ち葉や木の実、澄みわたるような空やいわし雲……など、絵が細かいので、すみずみまで見るだけでも楽しめますし、本に出てくる落ち葉や木の実を見つけて、外で遊んでくれたらいいなと思っています。

『おちばいちば』(ブロンズ新社)より

 特に気に入っているのは、落ち葉の魚がずらーりと並んでいる場面と、急な侵入者(キツネ)にみんなが驚く場面です。表情の一つひとつや、魚たちの変化を描くのが楽しかったですね。食いしんぼうなので、「ちょろり堂ごちそうや」の食べ物は、自分でも全部食べてみたいと思っています!

『おちばいちば』(ブロンズ新社)より

自然や生き物への思いをつめ込んで

――西原さんも子どもの頃は、落ち葉や草花で遊ぶのが好きだったという。いろんな見立て遊びを子どもの頃に経験しているからこそ、たくさんのアイデアが絵本にあふれる。

 子どもの頃は、登下校中に草花を摘んだり、弟と公園に行ったりして、自然のものでごっこ遊びをするのが好きでした。草花の遊びで印象深いのは、花のかんざしづくりです。道端の花を寄せ集めて、ヒメシバの穂をかんざしのビラビラ(ビラカン)に見立てて頭に飾って遊んでいました。花の色水でジュース屋さんごっこをしたり、シロツメクサの茎をどこまでも編んでみたり……。すぐそばにある自然のものを使って空想する、そんな遊びをたくさんしていましたね。小さな虫や小動物も好きだったので、この本に出てくるテントウムシ、トカゲ、ミノムシ、モグラ、蛾、どんな生き物も、見つけると嬉しくなってしまいます。そういう好きなものへの思いを、この絵本につめ込みました。

『おちばいちば』(ブロンズ新社)より

――秋は外でいろいろな宝物を見つけられる季節なのに、コロナ禍でなかなか出かけられない子どもたち。そんなときだからこそ『おちばいちば』を楽しんでくれたという友人や読者に、西原さんは元気をもらったという。

 つい最近、第2子を出産したばかりの友人が、私の絵本を読んだとメールをくれたんです。上のお子さんとずっと家で籠って過ごさなければいけなかったとき、「細部まで何回も『おちばいちば』を見て、巣ごもり生活を乗り切ったよー」と言ってくれました。細かい絵を描くのはとても大変でしたが、描いた甲斐があったなぁと思いました。私もコロナ禍のなか最近出産しましたが、外出もままならず友達にも会えず悶々とすることがあります。似たような状況の方の役に立てたことが嬉しかったです。

魚市場に取材に行って、魚が並ぶ様子や運ばれる様子などを虫や落ち葉で再現した(写真・本人提供)

 『おちばいちば』を出版してから今年でちょうど10年を迎えますが、この10年で大きな災害が幾度もあったり、コロナ禍があったり、子どもたちをとりまく状況は変わったように思います。そんな中で、この絵本を通して、自然の中の遊びや、小さな生き物たちに思いを馳せる読者さんが変わらずにいてくれると聞いて、本当に嬉しいです。実際に読者の方から、この本を見てお店やさんごっこをしたよ、という声を聞くことがあります。子どもが自分で新たなお店を考えて開店するのもいいですし、葉っぱのおさかなを作って部屋に飾ってもいいですし、絵本の世界で自由に遊んでもらえたら嬉しいですね。