正義感の強いファッションオタクの新道開(しんどうかい)は、ある日、今どき珍しいほど熱い若者・ジャン君に出会う。業界の構造に疑問を持っていた開は、彼のファッションショーを成功させるべく、自分や家族の時間、知識や人脈など持てる全てをつぎ込む。
華やかなイメージのファッション業界だが、その裏側にはさまざまな思惑が交差し、泥臭い駆け引きが行われている。ショーを成功させるためには、相当額のカネも必要だ。こだわりの強い猛者が跋扈(ばっこ)する世界で、元手のない2人が協力者を増やし、前進する様がユーモアを交えながらテンポよく描かれ、開のかつての夢も再び熱を帯びてゆく。
仕事マンガとしても魅力的な本作だが、さらに惹(ひ)きつけられる点がある。本来なら痛快なはずの展開に、不穏な影がつきまとうのだ。誠実な言葉を吐くジャン君の気になる行動の数々。彼の熱意は欺瞞(ぎまん)で、やがて開に飛び火した熱も冷めてしまうのか? 強引に思える熱の正体は、若きクリエイターが次のステージに上がる際に放つ必要悪なのか? 猛スピードで価値観が変わる今の世の中で、最も時代の気分を反映する業界。そのバックステージは、たまらなくスリリングだ。=朝日新聞2021年10月16日掲載