1. HOME
  2. コラム
  3. みる
  4. 三野新「クバへ/クバから」 沖縄を撮ることの意味考えさせる「指南書」

三野新「クバへ/クバから」 沖縄を撮ることの意味考えさせる「指南書」

『クバへ/クバから』より

 沖縄を撮るのは難しい。観光地であると同時に、日本の政治に翻弄(ほんろう)されてきた土地でもあるからだ。自分には撮る「資格」があるのか、写真家で自問しない人はいない。

 キャプションには沖縄の地名だけでなく、渋谷区や奄美市、杉並区とある。本書は沖縄の写真集というより、沖縄を撮ることと、鑑賞という方法でそのイメージを消費することがなんであるかを考える指南書のようなものかもしれない。著者は写真家であり演出家で、脚本を彷彿(ほうふつ)とさせる文章とそれに添えられた(あるいは文章が添えられた)ドローイングがところどころに挟み込まれている。

 写真家でありながら当事者でいることは難しく、当事者の代わりに物語ることも難しい。誰も傷つけないことを念頭におくと、なにも生み出さないことが最善策かと思えもする。それでも表現者は表現を続けなければならず、そのひとつの方法がここで示される。とても美しい本だと思う。=朝日新聞2021年10月16日掲載