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酒村ゆっけ、さんに音楽の力を伝えたVOCALOIDの曲たち

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 平成の時代に大切にしまってある大好きだった曲たち。それらには、ニコニコ動画という動画配信サービスで出会った。

 中学生の放課後は、帰宅部なので真っ先に家に帰りパソコンの電源を入れる。そして、ただいまとニコ動にログインした日々。当時、VOCALOIDの全盛期で「メルト」や「初音ミクの消失」など神曲と呼ばれる伝説の曲が次々と生み出された。

 ネットゲームの課金やゲーム社会におけるヒエラルキーに疲弊していた私は、ぼうっとしながらランキング上位の曲を再生した。

 それは、VOCALOIDの鏡音姉弟が歌う「悪ノ娘」と「悪ノ召使」というシリーズ化されている曲だった。私は、ふと何の気なしに再生したこの2曲を聞いた後大号泣していた。ここまで音楽に、曲に心を動かされたのは初めてだ。感動した映画や大好きなアニメの曲を聞いて、その時の情景を思い出して泣きそうになることはあるけれど、初見の曲で泣いてしまうなんて。

 若くして王女になり国を圧政した、マリーアントワネットを彷彿とさせる暴君王女。それと、彼女の双子の弟でもあり召使いとして側で支え続けた青年の二つの視点で描いた物語。涙腺崩壊と同時に、弟でもある鏡音レンに一瞬で惚れてしまった。ヲタクとしての道を突き進んだ最も黒歴史の時代でもある。

 こうした鏡音三大悲劇と呼ばれる曲に出会い、音楽の物語性と人の心を動かす力を痛感したのだった。そこからは、毎日曲の宝庫でもあるニコニコ動画にのめりこんだ。いまだに一人カラオケに行くとVOCALOIDばかり歌っている。数え切れないほどの名曲にたくさん出会うことができた。時には、曲があまりにも怖くて眠れず悪夢として出てくるものもあった。音楽単体で、感動やときめき、恐怖や笑いを感じることができると知り再生に無我夢中になり、初めて自分で貯めたお年玉を使ってウォークマンを買った記憶が懐かしい。

 また、フェスやライブ会場で観客が一致団結して曲を浴びている瞬間がたまらなく好きだ。それを初めて体験したのは組曲『ニコニコ動画』という既存の有名ソングをメドレーにした曲が400万、500万と伝説的な再生数を叩き出した記念日。その瞬間は、リアルタイムでネットを介してみんなで見聞きしながらコメントを書き込むことができる。そこで流れる熱狂的なコメントや画面を埋めつくす弾幕、自分もコメントを書き込むことで盛り上がりの中の一員になったとき、曲は見ず知らずの私たちを一致団結させ、普段生きていても得られない一体感を与えてくれた。今でもその時の光景が色濃く記憶に残っている。人生において一番好きなアニメ「ひぐらしのなく頃に」の「you」という曲がメドレーで流れた瞬間に雄叫びをネットの中で上げた記念日でもあった。真っ暗な部屋で青白いライトに照らされる自分しかその場にいないはずなのに、気分はお祭りの縁日にみんなと来ているかのようだった。

 私の青春と大好きだった音楽はインターネットに詰まっている。普段からあまり音楽に触れてこないで育った少女に、音楽の素晴らしさを教えてくれてありがとう。令和から平成へ向けて感謝乾杯。