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暇さえあれば眺めてしまう 湊かなえ

 1月生まれの自分の誕生日が好きです。エドガー・アラン・ポーと同じだからです。エドガー賞のノミネート作の発表は、エドガーの誕生日に行われるため、2018年は人生最高の誕生日プレゼントだった、と過去の楽しかったことを何度も振り返るのは、老化の第一歩。

 しかし、1月の誕生石であるガーネットは、他の月のダイヤモンドやサファイア、ルビーなどと比べると地味な印象です。が、数カ月前、誕生日の石があることを知りました。365日分の宝石があるのかと、まずはそちらにびっくりです。

 私の誕生日石は「ビクスバイト」。パッとしない名前だなと思いきや、別名レッドベリル。赤いエメラルドと呼ばれる、アメリカ3大希少石の一つとわかれば、俄然(がぜん)、興味が湧いてきます。この石がまたアメリカに連れて行ってくれるのではないか。欲しい! だけど、手に入れにくいからこそ、希少石です。

 とはいえ、縁は縁を招くもので、時を同じくして、友人からミネラルマルシェの誘いを受けたのです。宝石や化石、隕石(いんせき)といった、鉱物の展示販売会。この世にそんなイベントがあることも初めて知りました。

 広いホールに約80店の出展があり、宝石だけでも、石の種類が豊富なだけでなく、形状も、原石から、ルースという磨かれた石、アクセサリー加工されたものと様々で、値段もピンきりです。これだけあればとレッドベリルを探すも見当たらず。感じがいい店で足を停(と)め、ダメ元で尋ねてみたら、なんと、あるとのこと。これぞ運命、何でも言ってみるものです。一辺4ミリくらいの四角い小さな石ですが、限りなく赤に近い深いピンクは大好きな色で、指輪を作ってもらうことにしました。

 待つこと2カ月。完成品は、ずっとこんなのが欲しかった、と心から満足できるもので、暇さえあれば眺めています。石言葉は「高次元の意識」。新しい価値観を与えてくれるという石が、私をどこに導いてくれるのか、楽しみで仕方ありません。=朝日新聞2021年11月10日掲載