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「運命の謎」書評 「小説を書け」と魔術に操られて

評者: 横尾忠則 / 朝⽇新聞掲載:2021年11月27日
運命の謎 小島信夫と私 著者:三浦 清宏 出版社:水声社 ジャンル:日本の小説・文学

ISBN: 9784801005921
発売⽇: 2021/09/24
サイズ: 20cm/270p

異才の小説家・小島信夫の導きによって文学と生き方に目覚めた著者が、小島との出会いと居候生活、みずからの文学修行と見えない世界への関心、そして芥川賞受賞にいたる“出来の悪い…

「運命の謎」 [著]三浦清宏

 本書を手に取った理由は、小島信夫でも著者の三浦清宏への関心でもない。「運命の謎」という題名に惹(ひ)かれたからだ。僕の好むY字路は人生の岐路。時代の推移。人知を超えた超越的で数奇な結末に振り廻(まわ)される恐怖と快感。ぞくぞくするのが運命。宿命の元、運命に従うか、運命に逆らうか、僕は成るように成る原理原則に委ねてきた運命論者ってところかな。
 ことの始まりは、三浦さんと小島さんのアメリカでの運命的な出会い。そんな小島さんは、相手の言うことを無条件で受け入れるという流儀の人で、すでに運命を受け入れる人かな?
 それとどう関係があるのか知らんけど、小島さんには、楽しみは女しかないという文学の基本姿勢があって、弟子のような三浦さんに対して、うざいほどのおせっかい焼きだ。小島さんの魔術によって三浦さんの運命を操りかねない。
 小島さんにとって小説は「生活そのもの、人生そのもの、信仰の対象ですらあ」ったという。詩人を志望していた三浦さんに「小説を書け」と強要する。まるで父親かスポーツのコーチだ。そんな小島さんに従っていた三浦さんは珍しく反抗する。「人生の目標はこの世ばかりでな」く、心霊世界こそ必要だと主張して、次第に小説への意欲を喪失していく。
 小島さんは黙っていない。この世にあるつまらぬことを書くのが小説というもので、いきなりあの世だとか天上だとかに眼(め)を向けてもダメだ、とどこまでも執拗(しつよう)に迫り、「自分が一番気になることを書け」とも言う。三浦さんは後に芥川賞を獲(と)るが、座禅を始めて次第に信心的になっていく。そんな三浦さんが一番気になるものは心霊である。
 小島さんの死後、三浦さんは交霊会で霊媒を通じて小島霊と対峙(たいじ)する。果たして小島霊は三浦さんに何を話すか? ここに運命の謎の解答を見つけることが、できるかも。
    ◇
みうら・きよひろ 1930年生まれ。小説家、心霊研究者、元明治大工学部教授。「長男の出家」で芥川賞。