新しい風になってくれたら
――2020年11月からTikTokで小説の紹介を始めて、今年「けんご大賞」を創設した理由は?
気づいたら大きくなっていたという感じで・・・・・・(笑)。僕がツイッターで、「今年おもしろかった作品を“けんご大賞”と称してTikTokで紹介しようかな」みたいなことを8月か9月頃にツイートしたところ、いろんな出版社さんが「それならちゃんとした企画にしようよ」って言ってくださって。本当にこんなに、きちんとした形になってて、すごいなって思いました。
文学賞ってたくさんありますけど、絶対同じにならないラインナップになったと思うので、大それたことは言えないですけど、新しい風になってくれたらいいなと思います。今回選んだ作品は誰にでも自信をもって薦められるような作品ばかりですし、中高生が気軽に手に取れるような環境をたくさんの書店で用意してもらっているので、小説に親しむきっかけになればいいと思っています。
――特別賞も入れて計11冊を、どのように選んだのでしょうか。
2021年に出版された単行本(特別賞は文庫本)の中から選んでいきました。とはいっても、僕が今年読んだ単行本は月15~20冊なので、冊数はそんなに誇れるものではないんですけど、僕の主観だけで、おもしろかった作品を選びました。迷いもありましたが、僕一人ですし、「これだな」って割とすいすい選べました。
――すべて「大賞受賞作」という位置づけがユニークですね。
順位が決められなかったのと、講談社の方に「せっかくお祭りのようにやるんだから、順位を決めずに全部バンって出したらどうかな」ってアドバイスをいただきました。
――中でも「ベストオブけんご大賞」に選ばれたのは、綾崎隼さんの『死にたがりの君に贈る物語』(ポプラ社)です。熱狂的なファンを持つ覆面作家の訃報が流れ、やがてファンたちが小説をなぞって廃校で生活することで、未完となった作品の結末を探ろうとする――というミステリー。「あなたに“推し”だったり、大切な譲れない何かがあるなら、絶対に読んでください!!」「大袈裟でも何でもなく、この作品は、人を救います」というけんごさんの紹介が印象的でした。
すごく感銘を受けた作品でしたし、2021年を振り返って、TikTokの「けんご小説紹介=何の作品?」って言ったときに、『死にたがりの君に贈る物語』を思い浮かべる方が結構多いと思うんですよ。そういう意味でも、第1回けんご大賞のベストオブ作品にふさわしいんじゃないかなと思っています。
今後はインスタグラムで
――1回目のけんご大賞を発表する直前に、しばらくTikTokをお休みすると発表されました。プロの書評家からTikTokで小説を紹介することに疑問が呈され、今年の夏ごろからは活動に対して批判的なDMが数多く寄せられていたとツイッターで告白されていますね。
まぁ、いろいろありました。今は気持ちを切り替えていますし、違うステップに進んでいこうと思っています。
――けんごさんにも反論する余地があったと思いますが、「TikTokを休む」という結論に達したのはなぜですか。
僕の投稿を見てくださってる方に中高生が多いので、僕自身が変に盛り上げてしまうことで影響を与えるのもいやだったし、僕個人の問題だったので、フォロワーさんや中高生の方を巻き込みたくなかったんです。
――「TikTok売れ」という言葉に象徴されるように、けんごさんの投稿がきっかけで重版がかかることも多く見受けられました。投稿を始めて1年で、ここまで自身が出版界に影響を与えると想像されていましたか。
まったく思ってなかったです。
――今後はインスタグラムで小説紹介を続けていくそうですが、SNSというメディアに対してどう感じていますか。
動画を作る頻度は落ちると思うんですけど、本を読んだことがない方にも届くように、小説紹介を続けていくつもりです。SNSはたくさんの方に届けられるので、すばらしいものだなという思いは変わりません。2回目のけんご大賞ができるまで続けられたら、幸せだと思っています。
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けんご大賞11作は以下の通り。作家からの受賞コメントも紹介します。
【ベストオブけんご大賞】『死にたがりの君に贈る物語』(綾崎隼/ポプラ社)
沢山の物語が溢れ、容易く埋もれてしまうこの時代に。私を知らなかった方へ、この本を届けてくれたこと。それが、決して【普通の出来事】ではないと、知っています。(綾崎隼さん)
>TikTokでブレイク! 『死にたがりの君に贈る物語』綾崎隼さん×TikTokerけんごさん対談
【特別賞】『白い薔薇の淵まで』(中山可穂/河出書房新社)
エロスとタナトス、愛と死がこの世のすべてである。この小説を再び紙の本で読者に届けられることを嬉しく思います。膨大な本の中からこの本を見つけてくださったけんごさん、ありがとうございます!(中山可穂さん)
『N』(道尾秀介/集英社)
まったく違うメディアがこうして一つになれるのは嬉しいことです。翼を選んで空を飛ぶか、手足を選んで陸を支配するかではなく、協力し合ってスーパーマンのようなものを誕生させるのは、僕も創作で目指している到達点の一つです。(道尾秀介さん)
『オーラの発表会』(綿矢りさ/集英社)
『君の顔では泣けない』(君嶋彼方/KADOKAWA)
「“若者の活字離れ”は絶対に間違っている」僕が一番印象に残っているけんごさんの言葉です。けんごさんはTikTokという新しい媒体で小説を紹介し続け、多くの若者が本と出会う機会を作ってくれました。そんな中、『君の顔では泣けない』が選ばれたのは本当に光栄です。このことをきっかけに、この作品が若い人を始めもっと多くの人々に届き、そして何かを感じ、得られることを祈っております。この度は本当にありがとうございました。(君嶋彼方さん)
>もし、男女逆になったら 小説「ミラーワールド」「君の顔では泣けない」刊行
『月曜日の抹茶カフェ』(青山美智子/宝島社)
けんご大賞という素敵な賞をいただき、とても嬉しく思っています。抹茶色の12ヵ月の物語に、さらにひとつ、フレッシュで鮮やかな色彩を与えていただいたような気持ちです。「縁」をテーマにした小説『月曜日の抹茶カフェ』を通して、この本をお手に取ってくださった方々と新たなご縁が繋がり広がっていくことを願ってやみません。どうもありがとうございました。(青山美智子さん)
>青山美智子さん「月曜日の抹茶カフェ」インタビュー 人の「縁」は育てていくもの
『白鳥とコウモリ』(東野圭吾/幻冬舎)
「やった! けいご大賞とW受賞だ!」(東野圭吾さん)
『ばにらさま』(山本文緒/文藝春秋)
『星を掬う』(町田そのこ/中央公論新社)
TikTokという新しい世界で物語を広めて頂き、ありがとうございます。私が学生のころにこんなコンテンツがあれば、もっと読書が豊かになったのだろうな。(町田そのこさん)
『檸檬先生』(珠川こおり/講談社)
新人賞受賞作で選ばれることになり、嬉しくてとてもドキドキしてます。今回の受賞を機に、より多くの方々に届きますように。この度は、ありがとうございました!(珠川こおりさん)
>『檸檬先生』珠川こおりさんインタビュー 特殊な「共感覚」を持つ2人が問いかける“普通”
『夜行秘密』(カツセマサヒコ/双葉社)
「若い人が本を読まなくなった」と言われて久しいですが、けんごさんの情報発信への反応を見ていると、小説の世界はもっと多くの人に愛されていけると勇気をもらえます。この受賞をきっかけに、自分の本からまた別の本へと、物語に興味を持つ方が増えたら幸いです。(カツセマサヒコさん)