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君嶋彼方さんに影響を与えた「筋肉少女帯」の濃い歌詞

2019年のライブを収録したDVDも発売されている

 音楽には随分と人生を狂わされた気がする。もっと流行りの曲や人気のアーティストに夢中になれれば、もう少し生きやすくなっていただろう。

 我ながら不遜な言い回しだが、実際その通りなのだ。というのも元来天邪鬼な気質なので、流行り物に拒否反応を起こしてしまうのである。まぁ結局突き詰めれば自分のせいなのだ。

 大学に入ってからはその傾向が顕著になっていった。そのときに繰り返し聴いていたのが、筋肉少女帯である。当時筋肉少女帯は、休止期間を終え再結成したばかりだった。

 確かきっかけは、大学のサークルの先輩から薦められたからだったと思う。当時自分は戸川純や平沢進が好きで、それをカラオケで歌っているとその先輩が「絶対好きだと思う」と筋肉少女帯の名を挙げた。

 結果、見事ハマった。かなり影響され、楽曲を元にした小説を書いたりなんかもしていた。聴きながら思ったのが、「これを中学や高校のときに聴かなくて良かった」ということだった。こんな曲をそんな多感な時期に聴いていたら、もっと人生を狂わされていただろう。

 筋少の魅力は、そのキャッチーなメロディラインもさることながら、大槻ケンヂ氏の中毒性の高い歌詞にある。「友達はいないからやせた子猫の絵をかく」(「蜘蛛の糸」)、「人生は最期の武器なのだ 無駄弾は撃つなよ」(「ペテン」)など、独創性の高いフレーズが随所に散りばめられている。

 好きな曲はたくさんあるが、歌詞にグッと来たのは「香奈、頭をよくしてあげよう」という曲だ。香奈というちょっとおバカな彼女のことを歌うラブソングで、「僕」は香奈がこの世を生き抜くことができるために、彼女の頭を「よくしてあげよう」と映画を観に行ったり図書館に連れて行ったりする(この映画がカルト映画で、香奈が途中で眠ってしまうのもまた良い)。そして、ラストはこんなフレーズで締め括られる。

「香奈 一人ででも生きていけるように」

 この歌詞を耳にしたとき、度肝を抜かれた。恋の尊さを歌った曲はごまんとある。失恋の辛さを歌った曲も、同じくらいあるだろう。けれど、現在恋をしている人物が、恋の終わりを頭に思い浮かべている。そんな曲があっただろうか? しかも「僕」は、そのために彼女を変えようと努力しているのである。究極のラブソングではないか。

 かように大槻ケンヂ氏の歌詞は、言いようのない魅力に溢れている。そこから筋少だけでは飽き足らず、特撮、電車、UNDERGROUND SEARCHLIEと、オーケンの沼にずぶずぶと嵌っていった。

 繰り返すが、中高時代に筋少に出会わなくて本当に良かった、としみじみと思っている。きっとノートにやせた子猫の絵を描くような学生になっていたに違いない。

 それでもやはり、今の自分が形作られているのは、その出会いがあったからこそだ。この年齢になるとそこまで強烈な出会いをすることがあまりない。久しぶりに、人生を狂わされるような体験をしてみたいものだ。