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「ぜんぶ 愛。」書評 移住7年 高知に溶け込み旋風

評者: 須藤靖 / 朝⽇新聞掲載:2021年12月18日
ぜんぶ愛。 著者:安藤 桃子 出版社:集英社インターナショナル ジャンル:エッセイ

ISBN: 9784797674040
発売⽇: 2021/11/05
サイズ: 20cm/183p

「ぜんぶ 愛。」 [著]安藤桃子

 7年前、自ら監督した映画のロケをきっかけに3秒で高知への移住を決めた安藤さん。俳優で映画監督の奥田瑛二とエッセイストの安藤和津の長女として生まれた彼女は、いわゆる2世だ。故郷・土佐の文化と食べ物をこよなく愛する私ですら、東京育ちの人が田舎暮らしに耐えられるとは信じられなかった。
 でもそんな心配は余計なお世話。どっしりと高知に根をおろし新たな旋風を巻き起こし続ける彼女に、同じ高知家の一員としてまずは拍手と感謝を捧げたい。
 七光りの呪縛から逃れるべく、15歳から単身でイギリスへ。人種差別でいじめられた最初の高校を3カ月で転校。ロンドン大学在学中には、「お父さんの会社が倒産するかも」という母からの一本の電話で、貧乏学生の友人宅を泊まり歩く超極貧生活に転落する。
 9年弱の海外留学から帰国したわずか3日後に、東京・調布の日活撮影所で、見習いとして働き始める。
 奥田家の破天荒で非常識な日常も、平均睡眠時間2~3時間で換算時給200円のブラックな映画製作の下積み生活も読み所満載だが、高知での活躍談にはこちらの目が回るほど。
 公園に仮設で造った期間限定の「劇場0.5ミリ」に最初のひと月で1万人を動員、1年半期間限定の映画館キネマMの創設、全ての子供たちの笑顔と未来を考える異業種チーム「わっしょい!」の立ち上げなどなど。まさに本場のはちきん顔負けである。
 と同時に、70歳以上のじいちゃんズ4人との加齢なドライブや、道路の反対側から「ももこ~!」と大声で呼んでくれる居酒屋の女将(おかみ)さんとの交流は、これらの活動を通じて安藤さんが地元に溶け込み広く愛されている証拠そのものだ。
 本書の文章はすべて前向きな愛に満ち溢(あふ)れている。元気で明るい高知県人気質とマッチしたのも頷(うなず)ける。
 ぜひとも映画「0.5ミリ」を見て、わが高知愛を再確認したいものだ。
    ◇
あんどう・ももこ 1982年生まれ。映画監督。自らの小説を映画化した「0.5ミリ」で上海国際映画祭最優秀監督賞。