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「鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義」書評 膨張する日本を監視した言論人

評者: 保阪正康 / 朝⽇新聞掲載:2022年01月08日
鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義 著者:高橋 信雄 出版社:あけび書房 ジャンル:伝記

ISBN: 9784871541985
発売⽇: 2021/11/01
サイズ: 19cm/431p

「鈴木天眼 反戦反骨の大アジア主義」 [著]高橋信雄

 鈴木天眼(てんがん)(本名・力〈ちから〉)の名はそれほど知られていない。しかしその一生を俯瞰(ふかん)すると、一人の骨太のジャーナリスト像が浮かぶ。
 福島二本松藩士の家に生まれ、東京で学問を積み、20歳の折に初の著書『独尊子』を刊行。その後友人らと政論雑誌を刊行し、「二六新報」の主筆なども務めた。反藩閥政治の論陣を張ったが、その姿勢をより明確にするために長崎に移り住み、そこで九州日之出新聞、さらに東洋日の出新聞を創刊した。主にジャーナリズムの世界でその存在を記録されることになった。
 天眼の論旨は一貫している。著者は天眼が、反骨のジャーナリストとして近代日本史上の各事件、事象に反対していたことを紹介している。日露戦争では講和に反対する新聞や世論に、日本が得たものの価値を知れ、と自制を求める。七博士の主戦論とは一線を画せと主張。戦争で犠牲になるのは社会下層の若者だとも訴えている。戦争に勝利することで軍人が横暴になりがちだから、常に監視していなければならないとの主張は近代史への最大の注文だったのである。
 国会議員にもなっている。反立憲政友会のヤジ将軍だったとか。政治的立場としては、満州進出に批判的で、満州開発は日米露清の4カ国で、と主張した。辛亥(しんがい)革命を支持、孫文とも親しくし、いわば大日本主義の膨張政策に反対という姿勢が明確になっていく。
 著者は、天眼の言論の中で2点を強調している。一つは、天皇神格化への反対を執拗(しつよう)に繰り返していることだ。神格化は政治利用につながるとの懸念は実際に当たっていた。もう一つは、頭山満や玄洋社とは次第に距離を置くようになり、強い筆調で批判するようになっていく点である。
 日本近現代史にはこのようにバランスを保とうとした言論人がかなりいたはずで、そのような人物の発掘が進むたびに、私たちは日本社会の奥行きの深さを知ることになるように思う。
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たかはし・のぶお 1950年生まれ。元長崎新聞論説委員長。著書に同紙1面コラムを抜粋した『信の一筆』1~4。